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本の紹介「ザトウムシ」

「ザトウムシ ところ変われば姿が変わる森の隠遁者」鶴崎展巨著、築地書館、2024年8月、ISBN978-4-8067-1667-9、2400円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【萩野哲 20250628】【公開用】
●「ザトウムシ」鶴崎展巨著、築地書館

 ザトウムシはクモと同じクモガタ綱に所属する目のひとつで、眼の数が2つ、糸を出さない、頭胸部と腹部の間がくびれない、交尾する、餌を固形物として取り込む、などの点でクモと異なる。日本に約80種、世界では約6300種が知られている、云々。しかし本書は、ザトウムシという、いささかマイナーな動物のトリビア的な知識を伝えるものでは決してなく、ザトウムシを通じて種分化、遺伝、染色体など動物界の基本的な基礎知識が本文やコラムに満載されている。歩行以外の移動手段を持たないザトウムシは地理的変異が大きい。多くの動物地理学的な事例が示されている。また、複雑な遺伝様式を持っており、それらの進化を探るための有用な材料になるかもしれない。XY型とZW型の両方が見られるし、産雌単為生殖かつ4倍体のある種の雌雄モザイク個体の出現率は高いし、同種で染色体数の変異が大きいものもある点、非常に興味深い。

 お薦め度:★★★  対象:ザトウムシを通じて生命とは何か、ゲノムとは何かを考えたい人
【里井敬 20250820】
●「ザトウムシ」鶴崎展巨著、築地書館

 豆粒のような体に長い脚、眼の無い蜘蛛だと思っていたら、クモガタ類という別の仲間。しかも眼は背中に丸い眼丘がありその左右に2コの単眼がある。ほとんどの種で単眼は小さいがマメザトウムシのは体の割にはギョロリと大きい。乾燥に弱く、自然度の高い森林にしか生息できないので、寒冷・温暖のサイクルで南北には分布域が広がるが、東西に分布を広げることはない。そこで南北に流れる大きな河川の東西で分化が起こる。移動距離が少ないことから、単為生殖を行う種が多い。両生生殖を行う熱帯産の種の中には、保父行動を取るものもいる。また、ザトウムシは染色体変異も多く、狭い地域の中でも地理的に変異する種もあり、単為生殖種では倍数体の個体が見つかっている。性染色体もXY型とZW型の両方が見られる。森の中にはまだまだ面白い生き物がいる!

 お薦め度:★★★  対象:山で脚の長い生き物に出会った事のある人、出会ってみたい人
【和田岳 20250822】
●「ザトウムシ」鶴崎展巨著、築地書館

 イントロを読むと、よくザトウムシの図鑑を書けと言われるが、ザトウムシ分類の改訂が道半ばなので、まだ図鑑は書けない、とある。でも、一般向けの入門書を書くことになったのだそう。
 第1章はザトウムシの体のつくりと、大まかな分類。第2章は生態。越冬方法、食性、呼吸、捕食者・寄生者、性染色体、交尾、単為生殖、保育行動、集合性。第3章は地理的変異と分布、第4章は日本のザトウムシ研究を開拓した3人を紹介、第5章は雑学、第6章は採集方法と標本の作り方、第7章は30種を簡単に紹介。とにかく、ザトウムシのいろんなことが書いてある。ザトウムシについてとても勉強になる。
 でも、専門的な話が多くて、文章もかたくて、とても読みにくい。一般向けの入門書とは思えない。これでは入門者は増えない。図鑑は常に暫定版。分類なんて終わる訳がない。とにかくさっさと図鑑を書くべき。

 お薦め度:★★  対象:ザトウムシに興味があって、難しい専門用語や馴染みのないザトウムシの種名をもろともせずに読み進める自信がある人
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