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本の紹介「揺れうごく鳥と樹々のつながり」

「揺れうごく鳥と樹々のつながり 裏庭と書庫からはじめる生態学」吉川徹朗著、東海大学出版部、2019年3月、ISBN978-4-486-02160-5、2500円+税

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【冨永則子 20190826】【公開用】
●「揺れうごく鳥と樹々のつながり」吉川徹朗著、東海大学出版部

 鳥と植物の関わりは身近にありふれている。著者も大学のキャンパスに隣接する「裏庭」とも言える植物園で鳥と樹木の意外な関係に出会い研究を始める。シードトラップで回収したサンプルをピンセットで選り分けるという超アナログなことをしていたかと思えば、膨大な観察データをデジタルに整理分析していく。実際にフィールドに出て調査観察するだけでなく、「書庫」というフィールドから過去の調査結果を見つけ出し分析する。著者は、将来は動物か植物の生態学の研究をしたいと思っていたのに、文転して人文学部で学部生時代を過ごし、やはり鳥類や植物の生態学を学びたいと理系の大学院へ進んでいる。こういう経歴の研究者もいるんだなぁ。きっと真面目で一生懸命な人なんだろうな。

 お薦め度:★★  対象:鳥と植物の関係に興味のある人に
【萩野哲 20190813】
●「揺れうごく鳥と樹々のつながり」吉川徹朗著、東海大学出版部

 著者は、これまで鳥類と植物の相利関係、すなわち、種子を飲み込んで他の場所に散布する鳥と植物の関係に重きが置かれた研究に対し、種子食の鳥類に着目した。エノキの種子をくちばしでつぶすイカルの研究、シキミの種子を取り出すヤマガラの研究。立てた仮説を、年間の鳥群の動向や植物の不作などによって振り回されながら、自らの観察事例の乏しさを粘り強い文献探索と解析でと検証していく作業が続くが、そこには思わぬ複雑な構造が横たわっている。また、今までの常識が崩れてくることもある…。そして、ダーウィンってすごい人。

 お薦め度:★★★  対象:生態系の複雑さを理解したい人
【和田岳 20190828】
●「揺れうごく鳥と樹々のつながり」吉川徹朗著、東海大学出版部

 フィールドの生物学の一冊。いろいろ遠回りしつつも生態学研究を志し、植物と鳥との関係の研究を始め、失敗をしながらも一人前の研究者に育つ、というこのシリーズにありがちな展開。しかし、外国に行かない!
 京都大学の理学部植物園で、種子食鳥(イカル)が果実(エノキとチョウセンエノキ)を食べる話。書庫で文献を漁って、果実食鳥・種子食鳥と液果の関係を考える話。三宅島での調査をきっかけに、再び文献から花と鳥の関係をまとめる。最後は、シキミのヤマガラによる貯食散布の研究を軽く紹介。
 このシリーズの本としては、調査エピソードが少なく、自身の研究成果を真面目に紹介しすぎ。相互作用ネットワーク分析とか難しい話を…。

 お薦め度:★★  対象:鳥と植物の関係にいろいろ興味のある人
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