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本の紹介「忘れられた日本人」

「忘れられた日本人」宮本常一著、岩波文庫、1984年5月、ISBN4-00-331641-X、700円+税


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【加納康嗣 20060922】【公開用】
●「忘れられた日本人」宮本常一著、岩波文庫

 名著として有名である。旅する民俗学者が語る世界は、常民の日常の生活誌であり、何処の習慣が何処とどう違って、どう伝承してといった退屈な羅列ではない。語る民俗学である。誰もが賞賛する「土佐源氏」などしょうもない小説より遙かに面白く、身震いするぐらいだ。古き日本人はかくも逞しく、開放的で、漂泊を続けていたか。人は動くもの、立つもの(男だけか)、抱き合うもの、いたわるものなのだ。登場する人物たち、爺や婆、世間師、伝承者たちに逢ってみたい、そんな思いを膨らませてくれる。
 重畳たる山河が織りなす檮原を過ぎて、伊予に抜けたことがある。「土佐源氏」を助けた土地のええ師那須という名は、維新で活躍した郷士と同じ名だ。忘れられた日本人の香りがヒクヒクと鼻をくすぐる。
 2度目の読書だがより新鮮で驚きだった。歳のせいだろ。

 お薦め度:★★★★  対象:本を読まなくなった日本人、夜ばいが解る年頃以上の方

【石田惣 20060826】
●「忘れられた日本人」宮本常一著、岩波文庫

 その昔、日本人はどのように生まれ、育ち、働き、出会い、子を残し、そして亡くなっていったのだろう。中央政権の様子は文書に残っていても、庶民の暮らしは知る由もない。しかし、民俗学者は聞き取りという手法によって、人々の生活を文字で記録することを思いついた。その一人、宮本常一は日本各地の民家、村の名家から橋の下までを訪ね、一人ひとりの生涯を丹念に聞き取った。その語りからは、村の社会システムや人々の風俗、世界観が手に取るようにわかる。著者の表現力は、まるでその当時の村にいるかのような錯覚を与える。しかし、ふと我に返って愕然とするのは、これがほんの数世代前の日本ということである。

 お薦め度:★★★  対象:旅に出たいあなたへ

【六車恭子 20060605】
●「忘れられた日本人」宮本常一著、岩波文庫

 小学校教師の傍ら始めた民間伝承の調査、戦後は師匠渋沢敬三氏の「日本常民文化研究所」の一員として、「旅する人」として自らのライフスタイルを確立するとともに、精力的に各地の古老たちの生活者としての言葉をいきいきと伝えた本だ。 辺境の対馬に残されている「寄りあい」という談合の形態や、愛知県のある村の古老たちを集めた「名倉談義」、農村の女たちの不思議なそこ力をあますところなく伝える「女の世間」などは、宮本氏の視点が加わってにわかに輝きをます。
 これが聞き取りであるのか創作なのか定かでなくなるほど著者宮本氏は語り部に寄添い一体化する、「土佐源氏」などはまさに圧巻。
 ここには忘れてはならない私たちの父母のものがたりがある。

 お薦め度:★★★★  対象:もう一つの生き物図鑑を探している人

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