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本の紹介「歌う鳥のキモチ」

「歌う鳥のキモチ」石塚徹著、山と渓谷社、2017年11月、ISBN978-4-635-23008-7、1400円+税


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【和田岳 20180427】【公開用】
●「歌う鳥のキモチ」石塚徹著、山と渓谷社

 クロツグミの囀りと繁殖生態の研究者だった著者が、鳥の囀り全般になわばりを拡げ、鳥の囀りについてのいろいろを紹介してくれる。
 第1章は、鳥の囀りについての基礎知識をいっぱい紹介。鳥が囀るのはどんな時か、鳥が囀るのはなんのためか、物真似はなんのため? どうして渡りの途中や秋に囀るのか? 鳥の囀りについてのいろんな疑問に答えてくれる。第2章は、著者がさまざまなの鳥の囀りについて調べた結果が紹介される。ノビタキの歌の日周リズム、キセキレイの2つの歌などなど、囀りでこんなに色々楽しめるとは。第3章は著者が一番詳しく調べてきたクロツグミの繁殖生態の紹介。複なわばりのようでそうでないクロツグミのなわばり制。独身メスに聞かせる囀りと、つがい相手のメスに聞かせる囀り。囀りを切り口にしての、繁殖生態研究の面白さが伝わってくる。鳥の囀りを聞いて色々考えるのに最適の一冊。

 お薦め度:★★★★  対象:鳥の囀りを聞いたことのある人


【西本由佳 20180422】
●「歌う鳥のキモチ」石塚徹著、山と渓谷社

 鳥のさえずりは夜明けごろにはすでにピークを過ぎているという。そんなに早くから何のために鳴くのだろう。歌に関するそうした疑問を、「キモチ」と言って擬人化したような表現をとりつつも、進化の結果残ってきた行動として説明している。自身のクロツグミの研究では、歌の主旋律とつぶやき声の違い、歌のレパートリーからの個体識別や集団としての特性、「独身」かつがいかによる歌や空間の使い分けなどが、たくさんの記録とソナグラムから紹介される。なわばりのなかでは「既婚者」として歌を抑えて、そこから離れた場所で「独身」としての歌を歌うというクロツグミの話は、なんか鳥の調査のいろいろな前提が崩れてきそうで、でも事実そういう鳥がいるんだなあと、とまどった。

 お薦め度:★★★  対象:鳥の声が気になる人に


【森住奈穂 20180427】
●「歌う鳥のキモチ」石塚徹著、山と渓谷社

 これはまるで「ききみみずきん」!著者の専門は動物社会学と行動生態学。歌う鳥の私生活を丸裸にしてしまう。鳥の声は衝動的に「つい」出てしまうものだそうだから、人間みたいに心と言葉が裏腹ということはない(たぶん)。わかりやすくてよい。歌に入っている情報は、種、性、独身or既婚(独身を装うこと多々あり)、出生地(ご当地ソングやお国訛りあり)、個体、位置など。聞き分ける研究者もすごい。著者が30年近くフィールドにしているという金沢の森のクロツグミが詳しく紹介されている3章が特に楽しい。すべては自身の子孫を残すため、オスもメスも100%の利己的行動が見えてくる。自分でも、聞き分けや歌による個体識別に挑戦してみたくなる。

 お薦め度:★★★  対象:ききみみずきんを試してみたいひと


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