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本の紹介「ウナギが故郷に帰るとき」

「ウナギが故郷に帰るとき」パトリック・スヴェンソン著、新潮社、2021年1月、ISBN978-4-10-507241-4、2200円+税


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【萩野哲 20210615】【公開用】
●「ウナギが故郷に帰るとき」パトリック・スヴェンソン著、新潮社

 アリストテレス以前の昔から謎の動物であったウナギ。グラッシとカランドルーチョによるウナギの変態の仕組みの解明や、シュミットによるヨーロッパウナギ産卵場の発見などで、少しずつ理解が進んでいるが、まだまだ謎だらけである。最近の減少の原因も謎のひとつだ。このまま減少すれば、残った謎が解明されないままウナギがいなくなってしまうかもしれない。著者は“父さん”とともにウナギを獲った幼少期の記憶を振り返りながら、ウナギ保全のための施策が進まないことを憂う。あのフロイトがウナギの繁殖の研究をしていたとは知らなかった。

 お薦め度:★★★  対象:ウナギが好きな人
【森住奈穂 20210624】
●「ウナギが故郷に帰るとき」パトリック・スヴェンソン著、新潮社

 ただのウナギ本でなく、人とウナギの関わりについて、さらに人生について、壮大なテーマの本であった。著者の幼年時代、父親との思い出はウナギ釣り。ウナギは焦点の合わない目でじっと著者をのぞきこむ。そんな回想が半分と、もう半分は幾多の科学者が長年追いかけてきた「ウナギの謎」の物語。人のそばに暮らしながらその繁殖は謎のまま。アリストテレスの時代から21世紀の今もまだ続く謎。誰も見たことのない産卵の様子や卵…いっそ謎のまま残しておいてほしい気もするけど、絶滅の危機に瀕しているのだから、そんな訳にはいかないか。

 お薦め度:★★★  対象:ウナギといえば食べ物だと思っているひと
【和田岳 20210827】
●「ウナギが故郷に帰るとき」パトリック・スヴェンソン著、新潮社

 ヨーロッパウナギのおもに繁殖生態の謎を解明する歴史が、奇数章の紹介される。そもそも魚なのか?繁殖するのか?と基本的なところから謎だったウナギ。第1章で現在判っている繁殖生態の概要が紹介された後、第3章ではあのアリストテレスが間違っていた話、第5章ではフロイトがウナギ研究に挫折した話が紹介される。一番面白いのは、第7章。デンマーク人のヨハネス・シュミットが、20年近くかかって、ヨーロッパウナギの産卵場をほぼ明らかにする。あとはあまり面白い展開はなく、第17章で、絶滅の危機が語られる。
 偶数章は男の子とお父さんのウナギ採りの思い出が語られる。著者が子どもの頃、家の近所の川で、お父さんと一緒に頻繁にウナギ採りをした話が繰り返され、その周辺でファミリーヒストリーが描かれる。奇数章と絡んでいくのかと思ったら、ほとんど関係ないまま終わる。いらない。
 ニホンウナギが全然出てこないと思ったら、第15章の後半でようやく出てくる。余計な要素がなくて、ここが一番読みやすい。他は無駄に長い。

 お薦め度:★★  対象:ニホンウナギの繁殖についてある程度知識があって、ヨーロッパウナギはどうなんだろう?と思った小説好き
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