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本の紹介「海と陸をつなぐ進化論」

「海と陸をつなぐ進化論 気候変動と微生物がもたらした驚きの共進化」須藤斎著、講談社ブルーバックス、2018年12月、ISBN978-4-06-513850-2、1000円+税

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【中条武司 20190222】【公開用】
●「海と陸をつなぐ進化論」須藤斎著、講談社ブルーバックス

 植物プランクトンの中で重要な物の一つである珪藻。それゆえに多くの研究がされてきたが、著者は特徴もはっきりしないキートケロス属の休眠胞子に着目し、地球規模の海洋変化を解き明かす。さらにそのイベントがクジラ類をはじめとしたほとんどの海洋生物の進化と関係しているという「妄創」を紡ぐ。1-2章が微生物を中心とした海洋生態系の話で読んでいて少し長く(だるく)感じるけど、著者の研究に関わる3-4章は著者の妄創につきあって楽しく読める。

 お薦め度:★★★  対象:微化石を用いた研究について知りたい人
【西本由佳 20190221】
●「海と陸をつなぐ進化論」須藤斎著、講談社ブルーバックス

 珪藻という生物がいる。0.1oにも満たない硝子質の植物プランクトンだ。著者はこの珪藻の研究者で、さまざまな海域のコアから見るかる珪藻化石から、そのコアのたまった時代の環境変化を読みといてきた。その過程は地道で、1日10時間顕微鏡をのぞきこんで、珪藻を分類することから始まる。地味な作業だが、その分類によって、ある時代に珪藻がふえること、それが海洋の循環やクジラたちの進化と結びついていることが浮かび上がってきた。地道な作業と大胆な仮説、それが研究者というものらしい。

 お薦め度:★★★  対象:顕微鏡が好きで、顕微鏡から何ができるか知りたい人
【萩野哲 20190209】
●「海と陸をつなぐ進化論」須藤斎著、講談社ブルーバックス

 海の3大生産者の1群である珪藻を研究する著者。珪藻はケイ酸質の殻を持つものの、その代表属であるキートケロスの場合は繁殖中の栄養細胞の殻が薄くて化石として非常に残りにくい。残っているのは、形態的に識別が難しい休眠胞子のみであり、長らく「形態種」として実際の分類とは隔たった地位に置かれており、極めて生態学的・古生物学的な情報が乏しかった。しかし、著者は休眠胞子の形態を電子顕微鏡と光学顕微鏡とで地道に観察することにより形態種と実際の種とをつなげた。その結果、3390万年前の始新世と漸新世の境界で起こった大事変「大西洋キートケロス属爆発イベント(A*C*E)」などを発見するに至った。著者はこれらの発見に基づき、大陸が移動し、海流を分断したことによる湧昇流(陸上ではC4植物の増加によるケイ酸の海への流入)が起こり、珪藻が大繁殖し、それを食べるオキアミなどが繁殖し、遂にクジラ類(その他の海生哺乳類も)が繁栄するに至ったという共進化仮説(妄*創*)を本書で展開している。話が大きくて面白い。全ての事象が連動しているのか、示された図のみではわかりにくいことも多いが、今後の研究の進展により、進化のエンジンが何なのか、説得力が増大していくことだろう。

 お薦め度:★★★★  対象:共進化について興味を持った人
【和田岳 20190222】
●「海と陸をつなぐ進化論」須藤斎著、講談社ブルーバックス

 珪藻化石研究者が海洋生態系、とくに植物プランクトンの重要性の紹介してくれる。同時に、進化的時間での海洋生態系の変化を考える。
 二酸化炭素の固定の話から、陸上での森林の役割を、海では植物プランクトンが担っているんだ!と、あつく植物プランクトンをおしまくる。海の三大植物プランクトンと言えば、珪藻、渦鞭毛藻、円石藻。中でも珪藻は重要!と自分の研究対象をさらにプッシュ。毒を持っていたり、石油になったり、確かに藻類はいろいろスゴイ。
 後半は、著者の珪藻化石研究の話。キートケロス属の珪藻が急増する出来事が過去に3回あったらしい。で、今度は、珪藻の増加がクジラ・イルカをはじめとする海洋生物の進化に大きく影響を与えたんだ!という妄想が膨らむ。楽しそうだけど、最後の妄想は現時点ではあまり信じない方が良さそう。

 お薦め度:★★  対象:植物プランクトンは、海の生態系・海洋生物に大きな影響を与え、地球環境にまで影響する!という話を聞いてみたい人
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