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本の紹介「都市で進化する生物たち」

「都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社、2020年8月、ISBN978-4-7942-2459-0、2000円+税


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【和田岳 20210423】【公開用】
●「都市で進化する生物たち」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社

 都市で暮らす生き物の本はたくさんあるが、その多くは都市というヒトがつくりあげた環境を生き物がどう利用しているかを扱っているだけ。この本では、都市という環境での生物進化の実例が次々と紹介される。
 ヒトがつくった今や地球最大の環境、都市が紹介された後、都市という環境に適応して生物が進化する話。北アメリカのホシムクドリやサンショクツバメの翼が丸くなり、緑の島のタンポポのタメはあまり飛ばなくなり、都市のアノールトカゲの脚は長くなり、シロアシネズミの公園ごとに遺伝的に異なる。進化に関係ないけど、煙草の吸い殻を巣材に利用するイエスズメ、牛乳瓶の蓋をあけるアオガラの話は面白い。騒音が多い都市ではシジュウカラは高い声で囀り、オスのネクタイは細くなる。そして、都市に進出したクロウタドリは別種に種分化しつつあるらしい。
 都市という環境では、驚くべき進化が急激に進行してる。あなたの身の回りでも、きっと。

 お薦め度:★★★★  対象:都市で暮らしている人/FONT>
【西本由佳 20210116】
●「都市で進化する生物たち」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社

 生物を取り扱う研究は、人の手のあまり入っていない自然の残された土地で行われることが多い。しかし、都市にも生物は住んでいて、この人が作った新しい環境に適応しようとしている。著者が取り上げるのは、人の保護を必要とするかよわい生物ではなく、人の作った空間をうまく利用するたくましい生物だ。都市化という、ほとんどの生物にとって過酷な変化を与えた代償行為として、人が外来種を取り除こうとしたり、緑道をつくったりする。そういった行為に賛同せず、進化を見守ろうとする著者の姿勢には反発する人もいる。進化というわくわくする現象と、大半の生物が消えていくリスク、そういった環境を強いているのが人間である以上、人間はどうしたらいいのか、考えさせられた。

 お薦め度:★★★★  対象:都市で暮らす人
【萩野哲 20201212】
●「都市で進化する生物たち」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社

 人間の活動によって、多くの生物が直接間接に影響を受け、多様性を著しく低下させている一方、都市で新たな生態学的地位を創り出して繁栄に転じている種もある。人間が地下に建物を作り始めた1863年以降短い期間に狭い空間でも繁殖できるようになったロンドンチカイエカ、昼間活動しハトを食べるようになったヨーロッパオオナマズ、などなど。よく人間活動による進化の事例とされるシモフリガ(オオシモフリエダシャクと別の種だったんだ!)の顛末についても詳しく紹介されている。単一種が自分たちに都合のよい環境(=都市)に変えつつある、地球史上経験したことのない現状を認識するにつれ、人間の活動は生態学的に最も大きな影響を持つという事実を認めるべきだ、と著者は考える。そういう意味で、人間も自然の一部なのかもしれない。

 お薦め度:★★★★  対象:ダーウィン的都市って何か知りたい人
【六車恭子 20210827】
●「都市で進化する生物たち」メノ・スヒルトハウゼン著、草思社

 この本には「ダ一ヴィンが街にやってくる」という副題がついている。ダ一ウィンの進化論をしのぐ勢いで書き継がれる今の生き物の物語が語られているのだ。
 「進化とは、手つかずの自然で何千年もかけておこるものではない!」
 世界のどこに住まおうと、都市の生物種はどれも極めて似かよった都市同居者集団と遭遇する。私たち人間もまたその進化の過程にあるのだ。その共進化する責任とチャンスの双方とも、わたしたち人間の手の内にあるのだ。
 「ダ一ウィンと都市を設計する」試みが六本木ヒルズビルの屋上庭園としてうみだされた。
 1、「成長するにまかせる」
 2、「必ずしも在来種でなくてもよい」
 3、「元の自然を拠点として守る」
 4、「栄光ある孤立」
 これらの生態学的超放流者たち、世界市民であり、都市進化という不都合な真実に一歩譲るのも悪くない。
 都市とは進化を強力に推し進める拠点でありながら、多様性の大いなる喪失が生じる場所でもある。都市内部で生じるわくわくするような進化の過程を認識するひとつの実験道場の誕生ともいえそうだ。

 お薦め度:★★★★  対象:小さな変化を素早くキャッチしたい人
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