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本の紹介「水田の生物をよみがえらせる」

「水田の生物をよみがえらせる 農村のにぎわいはどこへ」下田路子著、岩波書店、2003年1月、ISBN4-00-005525-9、2600円+税


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【金井一史 20031222】【HPのみ公開用】
●「水田の生物をよみがえらせる」下田路子著、岩波書店

 かつては害虫、雑草としてしか語られなかった多種多様な生物が、今では絶滅危惧種となっているという事実を様々数値や実例、経験によって語る一冊。
 筆者は、まずかつての農村がどのように運営されていたかから語り、農村の現状を語る。それは高齢化と田圃の放棄である。 その結果、米を育てる環境でこそ、育まれていた生物が多く生存できなくなっている。その為、これらの環境の保全には農家の協力が決して欠くことができないと語っている。
 そして、終章では、いままでこの環境を保持してきた農家を無視し、独り善がりな保全活動に怒りを表している。環境保護が好きなのであれば読んでみては如何でしょうか。

 お薦め度:★★★  対象:環境保護とは人を排除することだと思ってる人

【瀧端真理子 20031030】【HPのみ公開用】
●「水田の生物をよみがえらせる」下田路子著、岩波書店

 開発か保護かで揺れた敦賀市中池見。この本の著者は、開発事業者側コンサルタントとして、環境保全エリアの調査・管理に関わってきた。筆者はこの地域が、保護側が好んで表現した「中池見湿地」ではなく、休耕田・放棄水田であり、人間の影響なしに放置すれば遷移が進行する 二次的湿地であることを強調している。地元農家の智恵と人手に支えられての保全作業の経験から、筆者は農業の実態に目を向けない自然保護運動のあり方を批判する。
 中池見関係の部分とは対照的に、途中の第3章は文章があまりにも退屈。近代化以前の水田の生物に関する記録が少ないことや、放棄水田の植生変化など興味深い内容が多いだけに、文章力や全体の編集のまずさが 惜しまれる。

 お薦め度:★★  対象:環境社会学を学ぶ人

【寺島久雄 20031220】【HPのみ公開用】
●「水田の生物をよみがえらせる」下田路子著、岩波書店

 農村に育ち、農家の実状を体験した著者が、植物の研究者として、水田や耕作放棄水田の戦後の歴史を見てきた体験を通して、水田の生態系の保全とのかかわりを克明に記述している。
 各地方のそれぞれの自然の生態系が違っており、同じ方法の生態系保全を行う事には無理があると警告している。
 興味ある章の拾い読みをすすめている。

 お薦め度:★★  対象:水田の歴史を知りたい人に

【和田岳 20031226】【HPのみ公開用】
●「水田の生物をよみがえらせる」下田路子著、岩波書店

 広島県の山間の農家に育ち、後に植物学を専攻して、福井県敦賀市中池見の保全に関わった著者が、幼い頃から現在にいたるまでに体験してきた農村での生活や農作業の変遷、そして中池見での水田生態系保全の体験を語った本。
 農作業の近代化の過程を体験してきた著者による記述は、貴重なものなのだろうが、同じような内容が繰り返され、本論の農作業の変遷にはあまり関わりのない思い出話も多く、とても読みにくい。
 農家によって維持されてきた水田の生物多様性を守るには、農家を守らなければならない、という著者の主張にはとてもうなずける。が、じゃあどうしたらいいのかが充分書かれていないのが不満か。

 お薦め度:★★  対象:農村の“近代化”の過程、あるいは中池見問題に興味のある人

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