友の会読書サークルBooks

本の紹介「「死んだふり」で生きのびる」

「「死んだふり」で生きのびる 生き物たちの奇妙な戦略」宮竹貴久著、岩波科学ライブラリー、2022年9月、ISBN978-4-00-029714-1、1300円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]

【和田岳 20221220】【公開用】
●「「死んだふり」で生きのびる」宮竹貴久著、岩波科学ライブラリー

 世界は死んだふりであふれているのに、死んだふりが科学的に調べられたことはないらしい。と気づいた著者は、昆虫を材料に死んだふりの研究をはじめる。本業の合間に始めた研究が、やがて世界的に評価される一連の研究に発展していく。その過程が順に紹介される。
 最初の材料はアリモドキゾウムシ。突いて死んだふりスコアを記録する、という簡単な実験。それで、どんな状態の虫が死んだふりをしがちかを調べる。歩いてる虫、夜の虫、腹が減った虫、暑いと。それだけでこんなに色々判ってくるとは!
 続いてコクヌストモドキで、死んだふりする時間が長い系統と、短い系統を育種して実験。死んだふりが、捕食者回避に役立つことを明らかに。のみならず、繁殖やストレス耐性とのトレードオフまで明らかに。
 誰もが知ってるけど、誰も調べてこなかったテーマを鮮やかに解明。とても格好いい。自慢を聞かされまくった気がするのは、ひがみに違いない。

 お薦め度:★★★  対象:虫が死んだふりをするのを見たことある人
【里井敬 20221219】
●「「死んだふり」で生きのびる」宮竹貴久著、岩波科学ライブラリー

 死んだふりをする動物は多いが、その中のコクヌストモドキという昆虫を用いた。何代にもわたって育種して死んだふりの長い系統(ロング)と短い系統(ショウト)を作り出し、行動からメリット、デメリットを調べた。死んでから出るベンゾキノンは死んだふりをしている時には出ないが、脳内物質を調べてみたら、ロングにはドーパミンが少ないことが分かった。また、ロングにはゲノム解析で変異が多いことも分かった。昆虫の死んだふりの研究が、害虫防除やパーキンソン病の研究に役立つかもしれない。
 個人的にはゴキブリが死んだふりをしてくれると助かるのだが、そんな変異をおこしてくれないものか。

 お薦め度:★★★  対象:ファーブルの昆虫の世界が好きな人
【西村寿雄 20221219】
●「「死んだふり」で生きのびる」宮竹貴久著、岩波科学ライブラリー

 動物が「死んだふり」して生き延びる話はよく聞く。ニワトリやカエルも死んだふりするとか。研究の世界では、あれやこれやで死んだふりする動物はゆうに50は超えている。本書はそれをサイエンスの世界でいろいろ調べた結果を述べている。「死んだふり」というのはあくまで世間の話、学問的には昆虫整理学では 「緊張性不動」、動物行動心理学では「フリーズ現象」などと言うらしい。
 その他、「死んだふりの損と得」「体のなかで何が起こっているのか」など、細かな研究経緯が綴られている。

 お薦め度:★★★  対象:生物生態に興味ある学生
【萩野哲 20221117】
●「「死んだふり」で生きのびる」宮竹貴久著、岩波科学ライブラリー

 昆虫採集をした人なら甲虫の「死んだふり」を見たことはあるだろう。しかし意外なことに、四半世紀前には「死んだふり」はほとんど研究されていなかった。著者はアリモドキゾウムシ、アズキゾウムシ、コクヌストモドキなどを用いて「死んだふり」(=死にまね持続時間)の定量化を比較的簡単な装置で行った。まずは静止モードと活動モード、昼と夜、飢餓、温度などを比較し、更に死にまね持続時間が遺伝することを発見して、次の段階の捕食実験により、(死にまね)ロング系統がショート系統よりも生残率が高いことを示し、「死んだふり」の適応的意義を証明した。更にいろいろな事実がわかり、ついには対捕食者戦略の教科書に「死んだふり」の1章を加えられるに至った。ヨカッタネ。

 お薦め度:★★★  対象:身近な疑問が発想力さえあれば簡単な装置で実験できることを理解したい人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]