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本の紹介「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」

「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」山口真美著、講談社+α新書、2007年7月、ISBN4-06-272446-4、800円+税


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【和田岳 20071018】【公開用】
●「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」山口真美著、講談社+α新書

 視覚における認知の問題を、絵を描いたり鑑賞したりするという角度から紹介する。互いにバラバラな話なようでいて、絵を中心にすえることで不思議とまとまる楽しい本。 両眼視差や運動視差で我々が認識している三次元世界を、動かない二次元で表現するのは無理がある。となれば、立体感のある絵を描くには、そもそもかなりの工夫が必要。今までどうしてうまく絵が描けなかったのかがわかった。その他、赤ちゃんの視覚の発達や視覚障害を持つ人の見え方など、さまざまな研究結果を示しつつ、絵に関連した様々な視覚の側面を解説してくれる。
 この本を読んでも絵を描くのはさほど上手にならないが、絵を鑑賞する際の視点は得られるかもしれない。少なくとも蘊蓄の一つくらいは語れるようになるだろう。

 お薦め度:★★★  対象:人間の視覚について興味のある人

【加納康嗣 20071016】
●「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」山口真美著、講談社+α新書

 目の機能が完全なのに見えない。脳の処理がなければ見えているものでも見えない。絵を描くのは、脳と心の処理であり、目で描くのではない。絵は「心の世界の表現」。
 こんな2つの経験がある。昆虫に全く関心のない人に、日浦さんのトンボの検索用の絵の描写を頼んだ。そっくり描いてくれるよう指導したのに、できあがったものは別物であった。野尻湖昆虫化石班で、報告書を書くために発掘した昆虫破片の化石を描画することになった。いくら調べても部位すらわからなまま描画した。昆虫のどの部分か解らなくても、しっかり写実すればいいと思った。しかしである、できあがったものはどうもバランスが悪く、落ち着かない。さらに検討していて、やっと特徴的な部分を発見し、部位を特定できた。既に描いた絵と比べて落胆した。必要な特徴は全く表現で来ていなかった。脳による既成の概念によって処理されなければ、見えているものでも見えないと言う典型的な経験だった。
 納得の本である。読みやすくわかりやすい。本題の解答はないようだが、答えは「普通の人は難しい」である。おそらく描いても似て非なるものであろう。

 お薦め度:★★★  対象:誰でも読んでください

【西川裕子 20071222】
●「正面を向いた鳥の絵が描けますか?」山口真美著、講談社+α新書

 人間は、脳で、心でものを見ている。カメラのようにそのままを写しているわけじゃない。顔だけがわからなくなる脳の障害があったり、ものの大きさと距離の計算は人間は当たり前にできるけれど、実はすごく難しかったり。
 どうもタイトルと内容が少しズレている気がする。見たいものだけを見ている脳(心)の話はよいとしても、性選択やら高機能自閉症の話まで入っているのはいかに。雑多に心理学トピックスが混ぜられている上に、全体を通した著者の主張もないために、何をいいたいのかよくわからない。コラム集と思うのが吉?!

 お薦め度:★★  対象:人間が持つ、空間・画像処理に関するテーマ探しをしたい人

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