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本の紹介「食虫植物」

「食虫植物」福島建児著、岩波科学ライブラリー、2022年3月、ISBN978-4-00-029710-3、1800円+税


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【西村寿雄 20220613】【公開用】
●「食虫植物」福島建児著、岩波科学ライブラリー

 たかが食虫植物かと思いきや、食虫植物について植物学的な蘊蓄がくわしく述べられている。まずは、ロリデュラという植物、たんに捕獲機能があっても栄養吸収機能があるかどうかで21世紀まで食虫植物には認定されなかったとか。植物はもともと葉を虫にかじられたりすると電気信号を他の葉へ送り防御機能が働く。植物のいくつかから環境の変化で食虫植物に進化したとみる。世界各地の食虫植物の系統も明らかにされている。各地の多様な食虫植物の形態と生態がまるで絵に描いたようにリアルに書かれている。

 お薦め度:★★★★  対象:植物学に興味のある人
【萩野哲 20220601】
●「食虫植物」福島建児著、岩波科学ライブラリー

 第1章の食虫植物の定義から引き込まれる。第2章の猟具も様々。第3章の偏食って何?幸いなことにヒトを食べる種は見つかっていない。第4章は葛藤!食虫植物といえども光合成機能を捨てていない。第5章、それでも虫を食べる意味は何か?それを解明する嚆矢となったのが、かのダーウィン。息子の代に虫を食べるメリットを証明した。だが、食虫植物が食虫後光合成活性を上げることの意味=生物の成分組成のバランスをとること、を見落とした。第6章、食虫植物同士が似てしまうのは収斂進化の結果と考えられている。進化の適応度地形の説明が参考になる。第7章の複雑精緻な進化は仮説の段階だ。とりあえず「使い回し」をキーワードとして覚えておこう。第8章は食虫植物についてのよいニュースと悪いニュース。『種の起源』から『誤りの相対性』まで、多くの例えを交えながら伝えられる食虫植物の物語が心地よい。

 お薦め度:★★★★  対象:虫植物から進化の妙を考えたい人
【森住奈穂 20220617】
●「食虫植物」福島建児著、岩波科学ライブラリー

 食虫植物という字面には、どこかおどろおどろしい雰囲気が漂う。植物が肉を食べるなんて、しかも自ら肉を得る手段を持つなんて、イヤ!不潔!みたいな。だけど食虫植物にとっては、そんなこと知ったこっちゃない。進化の道程で、そんなふうに舵を切ってはみたものの、捕虫能力はなくてはならないものでもないらしく、光合成能力はすべての食虫植物が維持。自らは消化酵素を持たず、粘着性のある葉で捕えた虫を食べる虫の微々たる排泄物をアテにしている種もある(食虫植物の定義は揺れ続けている)。自らの受粉を媒介してくれる虫が食事でもあるという葛藤や、食べながら食べられるために傷害応答と捕虫応答が混戦している話など、あれやこれやと工夫をこらしているのに、いろいろ苦労してはる気がする。読後には食虫植物が健気に思えてくる。

 お薦め度:★★★  対象:はみだしもの好き
【和田岳 20220617】
●「食虫植物」福島建児著、岩波科学ライブラリー

 世界に約30万種いる植物のうち、食虫植物は約860種。1%にも満たないけど、多くの人を惹きつける食虫植物のさまざまな側面を紹介してくれる一冊。
 食虫植物かどうか論争のあったロリデュラは、カメムシを介して虫を消化吸収してる。落ち葉を食べるベジタリアンのウツボカズラ、蜜をなめにきたネズミの糞を食べているウツボカズラ、はては中にコウモリを住まわせて糞を食べるウツボカズラ。捕虫袋の中で暮らすイモムシに喰われる食虫植物。たんなる食虫ではない、食虫植物と動物のさまざまな関係が紹介されて面白い。
 一方で、葉っぱを光合成に使うか、捕虫に使うか。惹きつけた昆虫を食べてしまうか、花粉を運んでもらうか。食虫植物の暮らしは悩み多い。
 第1章から第4章がとにかく面白い。後半挫折してもいいから、前半は読もう。

 お薦め度:★★★★  対象:植物と動物の関係に興味のある人
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