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本の紹介「死体が語る歴史」

「死体が語る歴史 古病理学が明かす世界」フィリップ・シャルリエ著、河出書房新社、2008年9月、ISBN978-4-309-22491-6、2800円+税


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【加納康嗣 20090613】【公開用】
●「死体が語る歴史」フィリップ・シャルリエ著、河出書房新社

 29章すべてが興味深く推理小説のようにスリリングでもある。著者はフランスの病理解剖学、法医学、古病理学を専門とする検死医で、大学の教官でもある。彼を中心として学際的な遺骸の検証が進められ歴史を変える多くの事実が明らかになっている。ヨーロッパの高貴な人の墓所は教会内であることはよく知られている。しかし、死後直ぐに解剖され、切り刻まれ、バラバラに埋葬され、盗まれ、奪われ、秘蔵され、薬や絵の具になり、博物館に展示され、転々と所有者が替わり、破壊され、やっともとに戻ったときにはほとんどが失われているという事実は驚嘆に値する。頭骨だけが残ったモーツァルトはましな方だろう。ジャンヌ・ダルクのように偽物の遺骸も作られる。夜陰に紛れて死体を奪う解剖医学生、死体販売業やミイラづくり業、死体から作る薬業の出現など。錬金術が化学の発展に貢献したように、死体文化が医学の発展に貢献したことが良くわかるが、東洋との違いが画然としている。
 これは「聖遺物崇拝」文化によるものである。現在も聖遺物市場が存在するという。学校で教えられない西洋史である。ともあれ、めっちゃ面白い。こちらに医学の知識が無いのが残念。

 お薦め度:★★★★  対象:ヨーロッパ文明の恩恵を受けている人すべて

【萩野哲 20090619】
●「死体が語る歴史」フィリップ・シャルリエ著、河出書房新社

 著者のシャルリエは病理解剖学、法医学、古病理学の専門家であり、アニェス・ソレルの遺骸調査をはじめとして自ら関わった多くの逸話を本書を通じて紹介している。ただ、どうも関わった全てを書いているように感じられ、章によっていささか玉石混交のきらいがあるが、まあ、脚光を浴びる以外の仕事が本来なのかもしれない。全体的に図が少ないのが惜しい。

 お薦め度:★★★  対象:推理が好きな人

【六車恭子 20090827】
●「死体が語る歴史」フィリップ・シャルリエ著、河出書房新社

 世界には死後の世界をこんなにも饒舌にかたりえるものか、青天霹靂の感に堪えない。著者が巻末にお薦めスポットとしてあげたリストこそ、古病理学の見地から歴史の謎に迫った死体の一部に出会えるところだろうか。国王や高貴な人々の死に際して検屍をおこなう習慣があり、棺に遺体をそのまま安置するために、防腐処理をおこなう習わしが確立していたようで、臓器も取り出して容器にラベルを付け安置して来たようだ。だがときどきその行方がわからなくなり偽物が横行する。古病理学はその真贋をとう学問でもあるようだ。
 また死体は解剖に供するために埋葬された墓場から掘り起こされたり、「薬として人体」の効能が産業として成立していたという。また西洋には特別な人物の聖遺物市場が存在し、高値で売買されており、「聖遺物崇拝」は根強い歴史的背景に支えられているようだ。死体にまつわるドキュメントが満載、ミステリー小説を読むようにその真相が明かされていく。

 お薦め度:★★★  対象:語られた歴史のその先を科学したい人

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