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本の紹介「しっぽ学」
「しっぽ学」東島沙弥佳著、光文社新書、2024年8月、ISBN978-4-334-10400-9、860円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【萩野哲 20250920】【公開用】
●「しっぽ学」東島沙弥佳著、光文社新書
大抵の動物にはあるしっぽが、なぜヒトにはないのか?これまでしっぽは長・短・無と大雑把な3カテゴリーしか分けられていなかったように、著者がそのような疑問を持つまで、あまり研究されていなかった。著者は手始めに、様々なしっぽの長さを持ち、標本も多数ある和歌山県の交雑ザルについて仙骨および第1〜3尾椎にかけての計20か所を測定し、尾長の推定式を作製した。そして他のサルたちとの比較を試みた。さらに形態学から発生学に転向し、ヒトの胚ではしっぽの伸長、停止の後、体節が少なくなって縮小することを発見した。そのメカニズムは未解明である。ちなみに、二足歩行やぶら下がり行動はしっぽの喪失と無関係。最初の疑問は今後の成果に待たなければならぬ。
お薦め度:★★★ 対象:「しっぽ学」に興味ある人
【冨永則子 20251023】
●「しっぽ学」東島沙弥佳著、光文社新書
しっぽ…基本的に脊椎動物の“しっぽ”とは、「位置」と「中身」と「かたち」の三つの条件を満たしている必要がある。肛門あるいは総排泄孔より後方に存在し、内部に体幹と同じように椎骨や筋肉、神経、血管を備えていて、体の外に突出していること、それが大事。“しっぽ”は多くの脊椎動物にあるのに、ヒトにはない。遠い遠い祖先には生えていたのに、およそ1800万年前の化石では既に失っていた。ヒトは、いつ、なぜ“しっぽ”を失くしたのか? そんな“しっぽ”のナゾを考古学に触れてみたくて奈良女の文学部に入った著者が京大理学部の院生となって、初めての海外研修のアフリカで、ふとした閃きで“しっぽ”を研究目標とした。その後、発生生物学研究室へ転向し、ヒトに“しっぽ”が生えていた胚子期に向き合う。京都大学にヒト胚の標本群がコレクションされていることにも驚いた。
文理の壁を超え、所属研究室を転向し、自分の研究のために流転する日々が語られる。
お薦め度:★★★★ 対象:文理の壁を超え、研究者を目指すヒトに
【西村寿雄 20251016】
●「しっぽ学」東島沙弥佳著、光文社新書
「しっぽ学」という聞きなれない題名にまず引かれる。著者は考古学にふれる中、動物の骨に魅了された。やがて、しっぽの骨に関心が向き、「しっぽ学」を立ち上げた。この本は、エッセイを交えて動物のしっぽ骨に関する話題を広げている。はたして人間にもしっぽがあったのか。興味芯々の書である。「わたしたちは生物学的な「ヒト」であると同時に人間特有の考え方を備えた「人」でもある」という著者の主張をもとに、人文的な背景もいろいろ語っている。それがまたおもしろい。
お薦め度:★★★ 対象:「しっぽ学」に興味ある人
【和田岳 20251024】
●「しっぽ学」東島沙弥佳著、光文社新書
著者はしっぽの謎に迫るために、さまざまな学問をツールとして使い、分野横断的に研究を進めているのだそう。文学部、理学研究科、医学研究科をわたり歩いて来た著者の研究史であり、しっぽ学史を記した一冊。
和歌山県のニホンザルとタイワンザルの交雑個体の仙椎と尾椎を計測。そして、さまざまな霊長類の仙椎を計測にイギリスへ。京都大学のヒト胚の標本の椎骨数を計測し、体節数が増えてから減少することを明らかに。そしてヒトの偽しっぽや、短尾遺伝子の話。最後は、尻尾のある人が出てくる書物をたどって、日本書紀に行き着き、能力の高さと余剰組織との関連について考察。
しっぽ学らしいが、哺乳類以外のしっぽは出てこないし、霊長類以外のしっぽも研究していない。著者の思いはさておき、尻尾という角度から霊長類の形態を研究しているとしか思えない。
お薦め度:★★ 対象:霊長類のしっぽに興味があれば
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