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本の紹介「進化という迷宮」
「進化という迷宮 隠れた「調律者」を追え」千葉聡著、講談社現代新書、2025年5月、ISBN978-4-06-539134-1、1300円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【萩野哲 20250816】【公開用】
●「進化という迷宮」千葉聡著、講談社現代新書
本書は進化のパーツ探求の旅である。大進化論争、著者が離島のカタツムリ研究に至った経緯、グールドの二面性、著者が経験したコンコルドの誤謬、適応地形モデル、DNA分析などを小松左京、手塚治虫、トールキンらの著作を交えて密度高く記している。大進化と小進化の要因は同じ(=小進化の積み重ね)か違うか、換言すると、生物進化の歴史をある時代まで巻き戻して再生すると、巻き戻す前と同じようになるのか、別物になるのだろうか?著者の研究する小笠原諸島の平巻きのカタマイマイ類では自然選択の普遍性・法則性を示す一方、タイタンのような偶発性を示す例もあった。他の海洋島に生息する塔形のカタツムリでは・・・違う。どちらが正しいか?グールドも揺れる、著者も揺れる。法則性と偶発性が相反するとは限らないし。何度も同じ適応を導く進化なら、その「調律者」は誰だ!
お薦め度:★★★★ 対象:進化の謎にどっぷり漬かりたい人、またはグールドファン
【里井敬 20251022】
●「進化という迷宮」千葉聡著、講談社現代新書
生物進化の歴史を巻き戻したら、その後同じような進化が起きるか?グールドは『バック・トウ・ザ・フューチャー』のように二度と同じ変化は起きないと考えた。人類の出現は偶然の奇跡の産物であると。進化には化石記録から計測された形態進化(大進化)、私たちの人生の時間スケールで観察される形態進化(小進化)があるが、手塚治虫が特に好んだマイマイカブリは捕食するマイマイの大きさにより頭の形が異なる。と、いうのは小進化の例であろう。
生物の系統関係、かつてはヒルゲンドルフが似た形をつなぎ合わせて推定したが、現代ではDNA塩基配列の違いから推定できるようになった。塩基配列の変化による塩基置換は確率的に起こる。
『指輪物語』のホビットが巨人と出会い共に暮らす内に大きくなるように、小笠原ではカタツムリは、キク科のワダンノキなどの巨木の中で大型化したというアイデアも遺伝的変異と自然選択の結果ということだろう。
小笠原のような、どこも似た環境で、点滴が少なく、ニッチな海洋塔のカタツムリは、進化を何度繰り返しても似た結果になる。違う環境では同じ環境進化を繰り返すことはないだろう。
お薦め度:★★★ 対象:現代の進化の考え方を知りたい人
【西本由佳 20250816】
●「進化という迷宮」千葉聡著、講談社現代新書
これは今、著者が考えていることそのままなのかなという本だった。グールドの人物像、昔と今の研究環境、グールドの『ワンダフルライフ』を下敷きにずっと思考が続いていく「調律者」の存在、研究室や野外での調査・研究の日々、著者の研究室で明らかにされたカタツムリなどの研究成果。これらが渾然一体となって脈絡なく(?)交錯する。個々のトピックはもちろんおもしろいが、読んだ後にどう感想を述べていいかわからない。進化について先端的な研究をしている研究者の思考の経過を追うと考えればいいのだろうか。あと、進化はその生物自体の適応への意思はまったく関与せず、偶然と自然選択の積み重ねという認識だったのだが、そうやって形成された生態系について、「調律者」という、人格というか何かの意思を想起させるような言葉をもってくるのはなぜなのだろう。生態系をある意味最適化していくように見える自然の働きへの敬意なのだろうか。難しい本だった。
あと、所々出てくるファンタジーな例えは、最低限指輪物語を見ていないとよくわからない気がする。著者の言うエルフは完全にトールキン系のエルフで西洋の民話とは性格が少し違うのと、ホビットは完全にトールキンの造語で、一般名詞とは思わない方がいいとかいろいろ。川上さんの本でも読んだのだろうか。無理して一般向け(?)な言葉を使うこともないと思うけど。
お薦め度:★★★ 対象:進化についてのトピックにふれたい人
【萩野哲 20250816】
●「進化という迷宮」千葉聡著、講談社現代新書
本書は進化のパーツ探求の旅である。大進化論争、著者が離島のカタツムリ研究に至った経緯、グールドの二面性、著者が経験したコンコルドの誤謬、適応地形モデル、DNA分析などを小松左京、手塚治虫、トールキンらの著作を交えて密度高く記している。大進化と小進化の要因は同じ(=小進化の積み重ね)か違うか、換言すると、生物進化の歴史をある時代まで巻き戻して再生すると、巻き戻す前と同じようになるのか、別物になるのだろうか?著者の研究する小笠原諸島の平巻きのカタマイマイ類では自然選択の普遍性・法則性を示す一方、タイタンのような偶発性を示す例もあった。他の海洋島に生息する塔形のカタツムリでは・・・違う。どちらが正しいか?グールドも揺れる、著者も揺れる。法則性と偶発性が相反するとは限らないし。何度も同じ適応を導く進化なら、その「調律者」は誰だ!
お薦め度:★★★★ 対象:進化の謎にどっぷり漬かりたい人、またはグールドファン。喩えとか引用で生物に関係ない様々な本も登場するので、読みこなすには生物学以上の知識が必要です。285〜298ページは怪談っぽいので夏(今や!)に読むとよいでしょう。サメやダニや魔物やゲリラの銃撃戦までかいくぐって、進化学者よ、ご苦労さん。
【和田岳 20250822】
●「進化という迷宮」千葉聡著、講談社現代新書
著者5冊めの単著の普及書。5冊目にして初めて、自らの探求の歴史が語られる。必然的に自分の研究内容や学生との共同研究の成果が次々と紹介される。そして、趣味にも走り出す。とにかく目次を開くだけで、ファンタジー色がぶんぶん。湖底の財宝、魔法、ホビットと巨人、妖精と怪物、ドラゴン、魔物。イントロの最後には、旅のなかまへの言及。『指輪物語』は必読書。
「進化のパーツ」を集めて、巻き貝の殻の形態の大進化の背後に隠れている「調律者」を探すというストーリー。この設定自体が、アドベンチャーゲーム色強め。それにしても、著者がここまでグールドの大ファンだったとは。
“偶然と必然”は古くから繰り返し問われてきた進化のテーマ。歴史を巻き戻したら、再び同じ歴史が繰り返されるのだろうか? 何度繰り返しても人類は進化するのか? 系統的制約と祖先ガチャ、どっちの影響が強いのか。「調律」は行われるのか? 「調律者」はいるのか?
小笠原諸島の媒島に初めてカタマイマイ調査に行った話を皮切りに、表現型可塑性の影響が大きく、形態の違いが系統の違いを反映していないヒラマキガイ類。古琵琶湖層群そして日本各地のタニシ類の系統分析から明らかになった湖のタニシのいろんな系統でおきる殻の急激な凹凸化。捕食者に対する対応の違いに基づいて外見がまったく違うのに、遺伝的に極めて近縁な北海道のエゾマイマイ(怪物型)とヒメマイマイ(妖精型)。小笠原諸島のカタツムリの樹上型と地上型の話。そして最後に「調律者」探し。調律者の正体よりも、調律者がいるかのように見えるパターンがあることに驚かされる。
お薦め度:★★★★ 対象:進化の謎にどっぷり漬かりたい人、またはグールドファン。喩えとか引用で生物に関係ない様々な本も登場するので、読みこなすには生物学以上の知識が必要です。285〜298ページは怪談っぽいので夏(今や!)に読むとよいでしょう。サメやダニや魔物やゲリラの銃撃戦までかいくぐって、進化学者よ、ご苦労さん。
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