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本の紹介「世界からバナナがなくなるまえに」

「世界からバナナがなくなるまえに 食糧危機に立ち向かう科学者たち」ロブ・ダン著、青土社、2017年7月、ISBN978-4-7917-7005-2、2880円+税


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【和田岳 20181221】【公開用】
●「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著、青土社

 世界の人類の大部分は、米、小麦、砂糖、トウモロコシ、大豆、ジャガイモ、ヤシ油、大麦、キャッサバ、ピーナッツなど限られた作物に依存して暮らしている。もしこのいずれかが、例えば新たな病害虫によって大凶作になれば、世界的な食糧危機が生じる。多くの作物において、効率よく大量生産できる単一品種ばかりが栽培されている現在、その危機は決してあり得ない事ではない。
 歴史を振り返りつつ、食料危機のリスクを紹介する一冊。同時に、その危機を避けるためにも、さまざまな作物の品種を維持し、同時に新たな遺伝子の供給源としての野生植物の保護も重要。多様性の維持こそが、危機の回避には必要ということが、説明される。
 単一品種が病原菌にやられると深刻な食料危機が生じる(19世紀に起きたアイルランドのジャガイモ飢饉)。また、わざと病原菌をまくテロも起きうる(ブラジルでのチョコレートテロ)。そして、食料危機は、一瞬で文明を崩壊させてしまう(シリア)。
 できるだけ近くで生産された作物を買うようにしてるのは、エネルギー問題を意識して。道の駅などで変わった野菜や果物を買うのは、好きだから。でも、食糧危機を避ける上でそれが消費者に推奨される行動と書かれていて、なるほどそういう効果もあるなと。

 お薦め度:★★★★  対象:生物多様性が重要と言われてもピンとこない人、あるいは飢饉は今すぐにも起きるかもしれないと言われても本当かなぁと思う人
【上田梨紗 20181026】
●「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著、青土社

 その土地で育てたい植物があっても、「世界」がほしがっている、適していると考えるものは別のもので、周りの人だけじゃなく「世界中」の人を無意識に意識して生きねばならない社会のありかた。
 食料について、飢饉や農業、病原菌、ビジネスやテロ、戦争や遺伝子、人間ドラマなどの本ですが、それだけではなくグローバル社会の闇を見てしまった感覚になる1冊です。多様性の重要度を改めて痛感! 全てにおいて世界的規模・基準で考えないといけないということがしんどいし、怖いと感じるのは、この時代に生きるモノとして未熟なのでしょうか。。。
 余談ですが、1500年頃の水夫が自分たちが食べた動物の骨や臓器を船外ではなく船倉に投げ捨てていたことについて気になる!

 お薦め度:★★★★  対象:食料問題を意識するために世界中の人に読んで頂きたい
【六車恭子 20200626】
●「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著、青土社

 私たちが日々食するバナナが腐蝕の大地の片隅で朽果てようとするショッキングなカバー絵が興味をそそる。バナナは一つの象徴にすぎないことが納得できた。人間が生きる上で欠かすことのできない主食作物が危ないのだ!我々が今、食せる奇蹟がどのような経緯で守られ、その戦いが継続しているかを知る奇跡の伝導書といえる。
 今、世界は単一な作物を大規模農園で生産し、我々の食卓に供されている。米、小麦、砂糖、トウモロコシ、コ一ヒ豆、キャッサバ…。その生産物の種子が問題なのだ。大規模農園でビジネスとして生産されている作物は時として病原菌に侵され壊滅の危機に立ち向かう科学者の軌跡をたどり、いま、私たちができることは何かを考える啓発の書であり、挑戦の書となっている。
 「作物は野生と結びついている(結びつける必要がある!)」このことを身にしみて理解させられる。一つの作物はその原産地に学ぶ必要があるのだ。かつてスペインのピサロがインカ帝国を征服し奪ったジャガイモを持ち帰った。しかし、彼らはジャガイモ飢饉に襲われる。インカ帝国の真の財宝は多様な作物とそれに関する原住民の知識のことだと知るのは500年という時間が必要だったのだ。
 南米ポリピアからはキャッサバ(カイガラムシ)、チョコレートのキヤッサバ(カカオの花につく天狗巣病)、イギリスの植民地、黄金海岸ではカカオにとってもっとも重要なのは緑の樹冠に生息する「アリのモザイク」なのだ。生態学者ディビット・ヒュ一ズ゙は木を救うためにアリ同士の戦争を利用する可能性を示唆している。
 「緑の革命」がめざした単一食物の栽培は生産性の増大、新たな作物の発見、世界中にひろがり、土壌の侵食、化学肥料や殺虫剤の利用による汚染の増大を招いていった。遺伝的資源の破壊がおもに現代の植物育種プログラムの成功によって拍車がかかった。水が丘を流れ下るように病原体は必然的に宿主を見つけることを理解しなければならない。作物を攻撃する害虫とそれをコントロ一ルするためにいつでも動員できる生物の完全な一覧を作成しておくべきだろう。
 しかしどんな難題がふりかかろうとも、この地球のどこかに解決の糸口があるのだ。私たちは小さな裏庭で、ベランダの片隅で、日々の暮らしに必要な作物を育てよう。その小さな営みが驚くべき発見に繋がることになるかもしれません。この本は絶望の書にあらず、我々に希望をもたらす伝導の書であったと気づかされる。

 お薦め度:★★★★  対象:土いじりの好きな人
【森住奈穂 20180816】
●「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著、青土社

 種のないバナナは挿し木で殖やされる。そのためどれも遺伝的に同一なんだそうだ。単一品種を大規模農地で画一的に栽培、世界中に売りさばくビジネス化した現代農業。その種を襲う病害虫に見舞われ、壊滅的な被害を受けた事例が紹介される。取り上げられる作物は、バナナ、ジャガイモ、キャッサバ、カカオ、コムギ、天然ゴム。現代農法によって収量が飛躍的に伸びたそれらは、76億人の世界人口を支えているが、同時に食糧危機という危うさを秘めているのだと著者は警鐘を鳴らす(生物テロだってあり得る!)。人類が農耕を始めた古代より、気候風土に合う種子を連綿と受け継いできた農業はほぼ廃れてしまった。かつては農家の数と同じくらい作物の品種に多様性があったという。その重要性に気づき守らんと命を懸けた科学者たちも紹介される。私たちにできることもある。

 お薦め度:★★★★  対象:飢餓といわれてもピンとこない、地球の人口は増え続けているようだけど、食糧は増産できるんじゃないの?と思っているひと
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