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本の紹介「生態学から見た人と社会」

「生態学から見た人と社会 学問と研究についての9話」奥野良之助著、創元社、1997年3月、ISBN4-422-43007-6、2000円+税


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【瀧端真理子 20040208】【公開用】
●「生態学から見た人と社会」奥野良之助著、創元社

 須磨水族館の飼育係から金沢大助教授に転身した筆者の放談集。学生運動と研究に熱中していた筆者は、紀州白浜の漁師、岩城惣八さんに出会い、研究は大学や研究所の専売ではないことを知る。須磨水族館では係長試験受験拒否をして、高卒の同僚から「奥野さんが平でおられたら、僕らは係長になれないじゃないか」と詰問される。
 1970年、公害問題が明るみに出たとき、当時の生態学者たちは、社会的強者(企業)と弱者(漁民や農民)間の問題を、「人類が環境を破壊し、破壊された環境が人類に仕返しをする」という環境問題一般にすり替えた、と筆者は非難する。
 第6・7話では、適応放散(小進化)と体制変革による進化(大進化)が平易に解説され、ダーウィンとマルサスの類似点へと話が進む。差別が絡む以上、競争は否定すべき、と説く筆者が、女性差別思想からは自由でないなど、時代の拘束性を感じさせ、興味深い。

 お薦め度:★★★  対象:コーヒーブレイクの友に

【寺島久雄 20040406】
●「生態学から見た人と社会」奥野良之助著、創元社

 負い目、内心忸怩の気持ちで戦中戦後から人間として生きてきた著者が、その効用を生態学と言う学問の窓から、学内、社会を眺めて語る本である。
 科学者の社会的責任。科学者の社会的地位を持っているという自覚。憲法第99条の中に「公務員は憲法を尊重する義務を負う」文言。研究は調べ事実を求める。学問は考えて真理を求める。等々基本的な事が忘れられている事を指摘し、国でも個人でも負い目と忸怩の気持ちを忘れないことだと結んでいる。

 お薦め度:★★★  対象:違った角度から人間社会を見たい人に

【和田岳 20040422】
●「生態学から見た人と社会」奥野良之助著、創元社

 著者は、須磨水族館の飼育係を経て、金沢大学の助教授になった変人。そんな著者が、好き勝手に書きまくった本。著者の主義主張が気にならないのなら、気楽に楽しく読める。少しは、生態学にふれている部分もあるが、大部分は生態学とはあまり関係がない。むしろ著者の人となりを書いてると言った方が正しい。自然史の本としてはお薦めできない。

 お薦め度:★  対象:斜に構えた変人の文章が読みたい人

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