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本の紹介「サケマス物語」
「サケマス物語 魚の放流を問いなおす」森田健太郎著、ちくま新書、2026年1月、ISBN978-4-480-07720-2、920円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【森住奈穂 20260417】【公開用】
●「サケマス物語」森田健太郎著、ちくま新書
美味しいサケマス。私たちの食卓に欠かせない存在だ。日本では長年、人工ふ化放流事業が行われており、現在、日本の川に遡上してくるサケのほとんどは放流魚だそうだ。この放流について、生物多様性の観点から問題視する声が上がり始めている。本書は放流が抱える問題点のみならず、人工ふ化放流が導入される背景となった河川開発や、放流の社会的な捉えられ方にも焦点をあて、人と魚の付き合い方の再構築について考察している。保全のためには生息環境の再生こそが効果的であること。放流だけが手段であるという思い込みから脱却すること。私たち自身の意識改革が、いま強く求められている。
お薦め度:★★★★ 対象:これからも美味しいサケマスを食べ続けたいひと
【西本由佳 20260412】
●「サケマス物語」森田健太郎著、ちくま新書
魚の卵をとり稚魚を育て川へ放すことは、魚の保護につながる美談として語られることが多い。ただ、この放流事業には問題があるという。まずは遺伝的攪乱。放流される川とは別の川の魚から卵をとってくれば、それは在来の遺伝子をもつ個体と別の川の遺伝子を持つ個体の交雑を招き、地域の遺伝子の固有性がおびやかされる。孵化場で育つ魚は孵化場で育つのに適した個体が生き残り、それは放流された川の自然条件で生きるのには適さないこともあり、交雑によって元の地域個体群にそういう遺伝子がもちこまれることで、その個体群の生存の適応度が下がることもある。また、病気や寄生虫をそれが本来いない川にもちこむことも問題となる。その場所でどれだけの生きものが暮らすことができるかを環境収容力というが、そもそも環境収容力が低い場所にたくさんの魚をもちこんでも、生き残れる数は限られ、保護をはかった魚の数が増加することにはならないということもある。著者はそういった問題を指摘しつつも、放流事業によって人々の関心が川や魚に向くというプラスの面も評価している。そして、放流をしなくても河川環境が改善すれば魚は自然にやってきた事例を紹介し、安易に放流するのではなく、河川環境の改善にとりくみ、魚の暮らす環境を整えていくことが必要だと結ぶ。
お薦め度:★★★ 対象:魚の放流はいいことだと思う人に
【萩野哲 20260409】
●「サケマス物語」森田健太郎著、ちくま新書
日本では1880年代からサケの人工ふ化放流事業を行っており、経済的な効果を物差しとして一定の成果があった。ところが、魚を増やす=放流という図式は正しくないことがわかってきた。いったい何がいけないのか?
本書は、サケマスとはどのような動物なのか、人間はどのように川の環境を改変してきたか、サケの放流をどう考え実施してきたかを紹介し、更に放流の問題点を明確にするとともに、今後の対策を考察している。サケを取り巻く環境は変化しており、サケの生物学的な知見も格段に蓄積してきた。放流を無批判に継続するのではなく、最新の知見を取り入れた対策を取り、サケマスという複雑な回遊多型を持ち、生態系全体にも大きな影響を及ぼす生物がその魚生を全うできる環境を保全し、更に正しい知識を得ることができる教育を敷衍することが肝要である。
お薦め度:★★★ 対象:放流事業が生態系に及ぼす影響を真剣に考えたい人
【和田岳 20260417】
●「サケマス物語」森田健太郎著、ちくま新書
サケ科魚類の研究者が、サケ科魚類を紹介すると共に、人との関わり、とくに放流の影響を論じた一冊。
日本に生息するサケ科魚類の呼称や生活史の紹介や、河川生態系がいかに人の影響を受けているかを見渡したあと、放流の問題に斬り込む。まず重要なのは、放流しても環境収容力以上の個体数にはならないこと。放流魚が加わると、野生魚と置き換わるだけ。地域集団を遺伝的に撹乱し、広い地域で遺伝的な均一化が起きる。放流に伴って、非意図的に運ばれる外来生物。放流魚の孵化場への適応(家魚化)、それが野外に放され、野生魚と交雑すると、適応度が低下する(トロイの遺伝子仮説)。放流して魚が増えた実例は乏しく、むしろ生息環境を整えれば魚は自らの力で増えることを指摘する。
最後に、以上を踏まえて、魚、とくにサケ科魚類とどう付き合うかが論じられる。情操教育の一環が目的と割り切り、「放流=魚が増える」ではないことを明確にした放流を認める。同時に、生息環境の改善と、自然繁殖のサケを増やす活動を期待する。
サケ、アユなど多くの問題が指摘されている魚の放流が見直されることを願う。この本ではあまり触れられないが、海での養殖や放流も気になるところ。
お薦め度:★★★★ 対象:魚を放流すれば、魚が増えると思っている人
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