動物の雄と雌をテーマに研究を積んできた行動生態学者である著者が、文字どおり‘雄と雌の数をめぐる不思議’を、読みやすい言葉で説く。前半を導入部的に割いて性の起源から決定機構、そして自然淘汰による昆虫や鳥類での性比の偏りと競争理論を解説する。後半では哺乳類での研究例、さらにヒト社会での子供の性差別に言及する。新しい章ごとに、それまでの内容を簡単に反復し確認する丁寧さと、常に慎重を重ねて客観的に選ばれた言葉遣いと展開に、信頼感と安心感を持って読むことができる。
お薦め度:★★★★ 対象:幅広く一般
【皆越清司 20020808】
●「雄と雌の数をめぐる不思議」長谷川真理子著、中公文庫
手にとってすぐに見ることのできるサイズで、持ち運びにも便利。値段のわりに内容も充実していて、幅広い年齢層の人が読める本だと思います。
まずは、雄と雌がいる理由から始まり、性比(雄と雌の数の比率)の偏りやヒトの性差別に至るまで論じられています。全体を通して、男と女、雄と雌を比較しながら展開していくので、意外に読みやすくなっています。
しかし、内容を完全に理解するには高校生物程度の知識が必要かな・・・と思います。端折りながら理解するのであれば、中学生くらいから読めるのではないかと思います。
お薦め度:★★★ 対象:やはり、六車さんと同じで理解する人向けです
この世の中、男と女、雄と雌に二分されるようだ。著者は長年、動物の雄と雌の違いや利害の対立をテーマに研究されてきたようだ。この本は前編、性比をめぐる不思議な話に満ち満ちている。
1930年頃ドナルド・フィッシャーによって報告された1対1という美しい性比に著者は魅せられて以来、性の起源から遡り進化の過程の性の偏りを論証して行く。環境要因による性比の偏りも様々な競争の果てにはフィッシャー理論にたどりつく。そして「人間にとって自然環境と同様に文化というものが一つの大きな重要な環境」であり、「社会や文化の在り方が変われば、人々の行動も容易く変化するだろう」と近頃は人間にも焦点をあてて行動生態学の巾を広げている。
お薦め度:★★★ 対象:数を数えるよりも意味を理解する方を好む方にお薦め
【和田 岳 20020809】
●「雄と雌の数をめぐる不思議」長谷川真理子著、中公文庫
性の起源、性の決定機構、性比の進化、性比の偏りの原因と、性に関わるさまざまな問題を紹介している。最新の研究成果に基づいて、正確さを損ねない程度にわかりやすく説明してくれている。性の問題だけでなく、行動生態学の考え方の入門書としてもよくできている。
第1章から第5章までが一貫して遺伝的な進化の話だったのに対して、第6章の”息子がいいか娘がいいか−ヒトの性比と子育ての性差別”では遺伝的な性比の偏りの話と同時に、文化的な原因による性比の偏りの話がでてきます。また遺伝的に説明される動物の子殺しと、慣習として行なわれているヒトの子殺しとが並んで紹介されています。この本の中でも刺激的でおもしろいのですが、慎重に読んでもらいたい部分です。
お薦め度:★★★ 対象:進化についてしっかり勉強したい人、大学生以上