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本の紹介「オシドリは浮気をしないのか」

「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書、4-12-101628-9、740円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【瀧端真理子 20020621】
●「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書

 筆者の研究史を一般向けに生き生きと紹介した好著。カラスの集団ねぐらを突き止めるために自転車で追跡、川にぶつかれば翌日同じ地点から追跡を再開した大学時代。ホオジロのなわばりを、休日に17時間座り続けて観察した中学教師時代の記録は圧巻。先行研究が自信なげに引いていたなわばりラインを、闘争地帯の幅として表現した。
 「鳥の結婚」を扱った第5章では、子育てのために次善の雄とつがいになった雌が、遺伝的に優良な雄を選んで婚外交尾を行う例や、鳥の一夫一婦制が「妥協の産物」であることを紹介している。「利他行動」を扱った第6章では、自己の繁殖を差し控えて血縁の子育てを手伝う、あるいは、自己の繁殖終了後に群れのメンバーの繁殖を助けるヘルパー行動が、前者では遺伝的利得や血縁の資源(なわばり・巣)の引き継ぎ、後者では繁殖雄死亡後の巣穴・雌の獲得や、群れなわばりの防衛をはかるといった、いつかは自分に返ってくる利己的行為にすぎないことを説明している。
 最終章は、キツツキ科・モズ科等が不在のマダガスカル島に飛来したオオハシモズの祖先が、空きニッチ(生態的地位)を埋めてさまざまに系統分岐を進める「適応放散」を、分子生物学を駆使した最新の研究成果で説明。現在を「進化が停滞している時代」と捉える著者が、現存する生物がいなくなれば、再び大適応放散が起きて地球上に新しい生物が満ち満ちるかもしれない、と記す結末はしゃれている。

 お薦め度:★★★★  対象:中級向き・元気の出る本


【早川友康 20020805】
●「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書

 カッコウ科の鳥の托卵戦略や鳥の大きさと卵の大きさの比例等の卵の話しや、カラスが風に乗ってねぐらに帰る話。ホオジロのなわばり争い等のなわばりの話。雌が雄を選ぶ基準などの結婚の話。ヘルパーの利益などの利他行動の話。キツツキのいない島でのキツツキ代理等の適応放散の話をいろいろなエピソードをふまえた鳥類学一般向けの本です。

 お薦め度:★★★  対象:鳥好きである程度本の読める人


【早川ひろみ 20020805】
●「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書

 世界の鳥類およそ9000種のうち9割以上が一夫一妻制であるが、オシドリ夫婦と言われる様に本当に鳥たちが「鴛鴦の契り」を守っているのかをDNAやフィンガープリント判定などにも基づく気の遠くなるような調査研究で鳥たちのしたたかさを暴露する。
 鳥の卵の章では托卵する鳥が托卵される鳥の卵と似せた卵を産む卵擬態の話や托卵される側がそれに気付いて卵を排除しようとしたり、托卵する側が新しい仮親を開拓して別の鳥に卵を産む様はなんとも涙ぐましい鳥たちの努力が描かれている。子供の頃美しいコバルトブルー色のムクドリの卵に魅せられて次々と卵を集めていった著者が、鳥の社会について紹介している。鳥たちも自分たちの遺伝子を残すために興味深い社会を築いている。著者は「私たちはどうしても自分の道徳観や倫理観を動物にも当てはめてしまいがちである。」と語り、実際の鳥の生きるための工夫を説き明かしていく。

 お薦め度:★★★★  対象:鳥好きの初心者


【六車恭子 20020808】
●「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書

 生き物の世界でなぜここにそれがあるのか、とその人がなぜ今のポストにあるのかの相関関係を気づかせてくれる本。鳥類学への扉は遠い小学4年生の日に神社のケヤキの根元でコバルトブルーの美しい卵を拾ったことに始まる。内なる声に導かれて夢中になって様々な鳥の卵の採集に明け暮れた少年の日々、若い中学教師として赴任した野尻湖の弁天島でのカラスの塒観察に端を発するカラスの追い風飛行を思いついた日々、過疎の小規模中学への転任も彼にはホオジロのなわばり境界を知るワンダーランドと化す。一見著者の幸運な成功物語のように見えるが、謎を追求する著者の姿勢は半端ではない。ついにその熱意はキツツキのいないマダカスカル島で適応放散したオオハシモズ科の系統分類達成をもたらしたのだ。

 お薦め度:★★★  対象:系統発生に気づいていない人に特にお薦め(気づけば君も未来の鳥類学者?)


【和田 岳 20020809】
●「オシドリは浮気をしないのか」山岸哲著、中公新書

 鳥の研究者としてよく知られた著者が、小さい頃からはじまって、次々とどんな対象を研究(+収集)してきたかをたどる本。
 鳥の卵コレクターだった少年時代(第二章)、カラスの集団ねぐらを観察した信州大学時代(第三章)、ホオジロのなわばりを調べた長野県の中学校の教師時代(第四章)、都市公園でモズの社会構造を調べた大阪市立大学時代(第五章)、マダガスカルのオオハシモズを調べた京都大学時代(第六章、第七章)。
 鳥類学や生態学などの理屈の説明もあるが、むしろ著者の業績一覧(+自分史)として読むのが妥当でしょう。

 お薦め度:★★  対象:鳥の研究(者)に興味のある人、高校生以上


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