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本の紹介「ニワトリの歯」

「ニワトリの歯 進化論の新地平」(上下)スティーヴン・ジェイ・グールド著、ハヤカワ文庫、1997年11月、(上)ISBN978-4-15-050219-5(下)ISBN978-4-15-050220-1、(上)680円+税(下)680円+税


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【六車恭子 20140425】【公開用】
●「ニワトリの歯」スティーヴン・ジェイ・グールド著、ハヤカワ文庫

 「ダーウィン以来」「パンダの親指」と進化の謎に迫る科学エッセー第三弾が本書だ。「大きな意味を秘めたささいなことがら」というのがグールドの得意とする関心値、その網の目に引っかかったことがらが俎上にのぼる。それはダーウィンがいかにしたら歴史への科学的なアプローチが出来るかを、40年にも渡ったミミズの研究で、小さな作用を長期にわたって足しあわせる心づもりがあって成し遂げられたことへの賞賛であり、「ニワトリの歯とウマの指」では「先祖返りとは生物がたどってきた過去が課す拘束とか制限といったものではなく還元システムが秘める莫大な潜在能力の一つの現れであり」、「・・・透明なインクで紙に書かれた文字のように、生物が既知のあるいは未知のある条件にさらされればすぐにも展開できるようにひかえている」ことへの驚きに導いてくれる。テイヤールのピルトダウン人ねつ造への関与を推理する手際は文学者の評論を読んでいるような興奮を味わえる、本書は知の冒険に満ち満ちたグールドの挑戦の書だろう。

 お薦め度:★★★★  対象:進化って何、と思える人ならだれでも

【萩野哲 20140422】
●「ニワトリの歯」スティーヴン・ジェイ・グールド著、ハヤカワ文庫

 著者は27年間(1974〜2001)にわたって「ナチュラル・ヒストリー」誌に毎月欠かさずエッセイを連載していたが、本書はそれらをまとめた第三作のエッセイ集(ちょうど3回目のダーウィン100年祭の時期に書かれた)であり30篇が選択されている。日本で翻訳が出たのは1988年、未だ消費税も導入されていない平和な時代であった。
 30篇全てが、プロローグも含めて、進化という深遠な主題をグールドの幅広い知識、深い教養に裏打ちされた、多方面の切り口から解き明かしていく珠玉の物語となっている。
 例えば、第1章「大きな魚、小さな魚」では雌雄の大きさがテーマになっている。男性の女性に対する優位性をうたったテニスンの詩にあるような通常の人の思いに反し、大半の動物はオスよりメスの方が大きい。オスの存在意義であるさまざまな機能(戦い、子の世話、etc.)の中で、究極的な生物学的機能である精子の生産のみが必要な局面を考えると、その代表選手として深海性のチョウチンアンコウ類が挙げられている。これらの種の中には矮小なオスがそれと比較して巨大なメスに癒着し、生殖器と血管系以外は退化してしまったものが存在することを紹介している。著者はここで、このような現象はアンコウ類全てに当てはまることではないことを正しく説明し、一般書によく見られる誤解を招く一般化を強く批判している。最後にシェークスピアを引用し、「賢き人の息子ならばだれもが知っております。−恋人との出会いで旅は終わるということを」の文で締めている。
 科学者をテーマにした6題のうち、ルイ・アガシを題材にした第8章についてはぜひとも紹介しておくべきであろう。友の会の機関紙「Nature Study」の基になった「Study nature, not books」をモットーにしたアガシは偉大な博物学者であったが、生涯最後まで神による創造を信じ、進化を信じなかった。だが、亡くなる1年前にアガシがガラパゴスを訪れていたことを、アガシが創設したハーバード大学比較動物学博物館に籍を置くグールドの知るところとなった。アガシの転向はあったのかなかったのか・・・。推理小説を読むような緊迫感が味わえる。
 25年ぶりに読んでも、プロローグからどんどん引き込まれて行く、知的好奇心満載の書であった。ここではに触れており、3回の100年祭(生後、種の起源出版、没後)で、自然淘汰説がどのような扱いを受けていたのか、簡潔に解説している。

 お薦め度:★★★★  対象:とにかく誰でも、読まなきゃ損

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