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本の紹介「日本の渚」

「日本の渚」加藤真著、岩波新書、ISBN4-00-430613-2、740円+税


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【六車恭子 20021220】【公開用】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 かつては確かに私たちの原風景として存在した「海やまのあいだ」の水にまつわる風物誌をひもとき、私たちが失ったものを気づかせてくれる本。
 日本の渚をくまなく尋ね歩いた一生態学者の荒廃した失われゆく海辺の自然を愛おしむ哀しみがこの書を生み、読後にまだ食い止めることができる希望を予感させて終わる祈りの書でもある。生物多様性の宝庫・熱帯雨林にも匹敵する身近な渚のしくみを伝えて衝撃を与えてくれる普及書であり、自然を愛する種子を届けてくれる伝播書でもある。
 
 お薦め度:★★★★  対象:自然を愛するすべての人に



【瀧端真理子 20021221】【公開用】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 河口に堆積する肥沃な泥の上に発達したヨシ原と、そこに生息する無数の生物たちが果たす有機物の浄化作用。干潟の泥表面は太陽の光を浴び、干出時には珪藻のスープが出来上がる。泥の上に這い出てきたトビハゼやムツゴロウたちはこのスープを舐めて育つ。干潟の食物連鎖も、干潟の浄化機能を果たしているという。本書では、藻場、砂浜、サンゴ礁、ヒルギ林、と章を追って、渚に展開される生物たちの営みと多様性が分かりやすい文章と豊富な写真や図で説明されている。
 惜しまれるのは、折口信夫をはじめとする文学作品の無批判な引用。「美しき私たちの日本」的発想と公共土木事業批判が1冊の本に並列され、戸惑いを感じる。
 
 お薦め度:★★  対象:文学作品の引用を無視して読める人



【瀧端真理子 20021117】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 河口に堆積する肥沃な泥の上に発達したヨシ原と、そこに生息する無数の生物たちが果たす有機物の浄化作用。干潟の泥表面は太陽の光を浴び、干出時には珪藻のスープが出来上がる。泥の上に這い出てきたトビハゼやムツゴロウたちはこのスープを舐めて育つ。干潟の食物連鎖網も、干潟の浄化機能を果たしているのだ。藻場、砂浜、サンゴ礁、ヒルギ林、と章を追って、渚に展開される生物たちの営みとその多様性が、分かりやすい文章と豊富な写真や図で説明されている。
 惜しまれるのは、折口信夫をはじめとする文学作品の無批判な引用であろう。渚の保護の手段として、ナショナリズムを援用することになりかねず、筆者の琉球史の把握の仕方とは矛盾をきたしているように感じられる。
 
 お薦め度:★★  対象:文学作品の引用を無視して読める人



【寺島久雄 20021207】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 渚という言葉に美しさと感傷の様なものを感じる。この海と人間の接点を詩的(神秘的な豊穣さ)に、そして科学的(生命と生物の多様性を)に著者は述べている。
 浄化装置としての葦原とそこに住む生物の食物連鎖のある渚。そこには緑にふちどられた、白砂の浜には色々の生物の歩いた足跡が残っている。長く続く汀線には波乗りするフジノハナガイやアナジャコ、海酸漿(ウミホオヅキ)、サンゴ等々を想像するだけで豊かさと美しいイメージが浮かんでくる。
 
 お薦め度:★★★★  対象:広く自然を愛する人に



【中条武司 20021214】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 汀線付近の環境のみに注目し、その自然の豊かさとそこにすむ生きもの、そしてそれが自然と共に文化までも失われゆく現状を語った作品。汀線付近だけとはいえ様々な環境があり、それがそれぞれの役割を果たし、そして全体が成立してるということが理解することができる。
 やや盛りだくさんすぎる内容で、話の転換が少し早く感じる。また、渚の保護を訴える最終章は蛇足気味。全体をもう少しゆっくりじっくり語ってもいい内容だと思う。
 
 お薦め度:★★★  対象:高校生以上、一般



【村山涼二 20021208】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 既に失われた、良き時代の渚の原風景を、万葉集の歌、俳句、広重の絵などで想像させてくれる。河口、干潟、藻場、砂浜の、それぞれの生物の営みを、目に見えるように画かれている。
 渚が、食物連鎖(プランクトン、珪藻、濾過捕食者、堆積物食者、魚、鳥)を通して、水質浄化や生物生産に如何に役立っているかを、わかりやすく述べている。サンゴは、二酸化炭素の固定を通して地球を改造してきたが、今、地球温暖化に重要性が認められている。
 渚は、水質浄化機能と共に、生物の生産性を持ち、生物の多様性を保つ働きを持っている。渚が失われることにより、水質の汚濁、生物の絶滅に向かっている。渚のかけがえのない価値を再認識することにより、誤った開発を反省し、政策の方向を転換する指針を与えている。
 
 お薦め度:★★★  対象:高校以上一般向き



【和田岳 20021219】
●「日本の渚」加藤真著、岩波新書

 海と陸の境目である渚。さまざまな日本の渚を、詩情豊かに紹介した本。副題の通り、すでに失われた、そして今なお失われ続けている日本の渚への著者の想いが伝わってくる。
 河口、干潟、藻場、砂浜、サンゴ礁、ヒルギ林といった様々な渚を順に取り上げ、かつてそこで見られたヒトを含めた生きものの営みが描かれる。かつての自然の風景を示すために、万葉集などを引用してみせる手法は鮮やか。登場する生物も多岐に渡っており、著者の守備範囲の広さには驚かされる。
 どうしたら渚を守れるのかという点に関して、現実味のある提言がないのが難点。しかし、それは我々みんなが考えるべきことかもしれない。
 
 お薦め度:★★★  対象:自然に興味のあるすべての人


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