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本の紹介「眠れない一族」

「眠れない一族 食人の痕跡と殺人タンパクの謎」ニエル・T・マックス著、紀伊国屋書店、2007年12月、ISBN978-4-314-01034-4、2400円+税


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【和田岳 20080627】【公開用】
●「眠れない一族」ダニエル・T・マックス著、紀伊国屋書店

 研究者がプリオン病の正体を見つけていくプロセスをたどる、一種の倒叙ミステリ。従来の病原体という概念の中では、プリオンがいかに異常な存在かがよくわかる。スクレイピーからBSE、クールー病、そしてタイトルにある致死性家族性不眠症(FFI)。さまざまなプリオン病の軌跡が語られる。そして、将来、アルツハイマー病など現代の難病の多くの原因がプリオンかもしれないことが示唆される。
 という表のストーリーと合わせて述べられるのは、研究者の裏の顔。プリオンを研究してノーベル賞をとった研究者にろくな奴はいない。そして、政府の実態。イギリスもアメリカも、政府は消費者の味方ではない。これは万国共通らしい。ぜったいにアメリカの牛肉を食べるのはやめておこうと思った。

 お薦め度:★★★  対象:狂牛病などプリオン病に興味のある人、あるいはミステリファン(本格ミステリ限定のファンを除く)

【加納康嗣 20080423】
●「眠れない一族」ダニエル・T・マックス著、紀伊国屋書店

 ヴェネツィアの呪われた一族の話から始まる、ミステリックなこの物語は、いつしか自身の血筋をも懐疑的にする恐ろしさに引きずり込む。やがてそれが、羊の病気「スクレイピー」、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイヤー・シャインカ病、パプア・ニューギニアの食人族の「クールー」病、狂牛病などと同じプリオン病とわかる。ダーウインのパラダイムの呪縛から解け、核を持たない「命のない」プリオンタンパク質の折りたたまれかたの異状という単一の病気の原理に収斂する過程は、余りにも興味深く、難解な用語も苦にならない。しかもその因果探求の結末が、何と80万年前の原人の食人習慣に行き着くとは。現代人は7万年前にアフリカを出た別系統でないか。にわかには信じがたいが、著者自身奇妙な病気を抱え、鋭敏に迫る恐ろしさは、ミステリー小説の乗りである。

 お薦め度:★★★★  対象:登場人物がミステリックに入り込んでいるので、推理小説ファンが最適

【六車恭子 20080627】
●「眠れない一族」ダニエル・T・マックス著、紀伊国屋書店

 本の体裁はミステリー仕立て、絵空事の遠い世界の一族の物語のはずが、緻密な構成で私たちの歴史からその功罪を浮き上がらせ、揺るぎない科学読み物にねりあげるゆく。世界のあちことで散発的に起る病例を、ある連鎖の糸をたぐって内実を暴いて行く手法は鮮やかだ。
 イタリアのヴェネト州のある一族に18世紀にとりついた「致死性家族性不眠症」はタンパク質の形成異常が基盤にあり、50代に発症し致死に至る病だという。食人種パブアニューギニアのフォレ族に多発したクールー病、羊たちを狂わせたクロイツフェルト・ヤコブ病、そして記憶も新たな狂牛病はいずれもウィルスでもバクテリアでもないタンパク質が体の中できちんと折り畳まれないために発症するプリオン病なのだ。著者もまた一種のプリオン病患者であり、ここ100年の医療の現場のさまざまの立場からこの殺人タンパクと闘った学者たち関係者の功績をつぶさに検証して行く。そしてこのプリオン病が人類発生の初期の段階にもうすでに存在し、自然の摂理ともとれる淘汰をくぐりぬけて現在の人類がある、ことを検証していく。80万年後のいままさに我々は自然の摂理を破壊してかっての脅威にふたたびさらされているを気づかねばならないようだ。

 お薦め度:★★★  対象:歴史は愉快なタイムトンネル、と思える人に

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