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本の紹介「虫をとおして森をみる」

「虫をとおして森をみる 熱帯雨林の昆虫の多様性」岸本圭子著、東海大学出版会、2010年9月、ISBN978-4-486-01843-8、2000円+税


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【萩野哲 20101217】【公開用】
●「虫をとおして森をみる」岸本圭子著、東海大学出版会

 多様性の宝庫と考えられている熱帯雨林は安定した環境と思われがちであるが、実際は代表的な構成植物群であるフタバガキ類の”一斉開花”の時期が不定期であったり、旱魃が不定期に襲ったりと、意外と変動しているらしい。著者は一斉開花のような植物フェノロジーの変動が昆虫数の変動にどのような影響を与えているのか、ハムシ類を中心に解明を進めている。分類や高木上の調査の苦労から、一斉開花に遭遇したときの喜び、そして熱帯の昆虫の多様性の維持機構についても踏み込んだ内容となっている。それにしてもゴンドラ中吊りの状態でオオミツバチに襲われたくないものである。

 お薦め度:★★★★  対象:熱帯雨林にあこがれている人

【加納康嗣 20101217】
●「虫をとおして森をみる」岸本圭子著、東海大学出版会

 著者は大阪市立自然史博物館育ちの昆虫研究者岸本年男君の奥さんである。イラストを描いている中原直子さんは直翅類学会の数少ない女性会員である。
 ボルネオのランビルで熱帯雨林の昆虫、特にハムシ科昆虫を長年にわたって追ったフィールド報告である。フタバガキ科の一斉開花と非一斉開花の変動や極端な干ばつ期を彼らがどう生きたか,食樹との相互の関係などその実態を明らかにしている。
 季節変動が少ない熱帯昆虫にも個体数変動があることを初めて明らかにしたのは新熱帯で研究したアメリカの研究者たち(各国の共同研究者も含む)である。ランビルでは一斉開花の送粉者であるアザミウマは非一斉開花期にはフタバガキ科サラノキ属から開花頻度の高い花に依存し、オオミツバチは開花頻度のより高い淡水湿地林に依存していることが明らかになっていた。ハムシ類は彼らと違い,非一斉開花期には花から葉に餌を変えて分類群の枠を超えた多数の樹種によって個体数を維持しており、昆虫を通して森の樹木たちが互いにかかわりあっていることが明らかになった。また、著者は干ばつという攪乱によって、ハムシ類はダイナミックに増減変動し、群集が維持されることを明らかにした。捕食や攪乱によって、どの種も資源を独占できず、結果として競争排除が避けられ、多数の種が共存できることになるという、熱帯林の種多様性の説明に一石を投じることになった。
 このシリーズはどれもコラムが面白い。読みやすく、わかりやすかった。

 お薦め度:★★★★  対象:昆虫の研究を目指す女性、研究者

【和田岳 20101217】
●「虫をとおして森をみる」岸本圭子著、東海大学出版会

 熱帯での研究生活を、研究者自身が自分の体験を語るシリーズの一冊。ハムシの研究者が、一斉開花とそうでない時のハムシ生活を追っていく。その中で、一斉開花についての研究、熱帯林の樹冠の研究、現地での標本の保存状況、熱帯林に生息する昆虫の分類の現状。附随したさまざまなテーマが紹介される。
 このシリーズでは、初の女性研究者の登場。シリーズで一番真面目に自分の研究を紹介しているようにも思う。熱帯林の昆虫の分類はまだまだで、未記載種がいーっぱいいるのは知ってたけど、熱帯林の昆虫の暮らしはさらにわかってないんだ。ということがわかる。

 お薦め度:★★★  対象:熱帯林好き、昆虫好き

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