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本の紹介「目の見えない人は世界をどう見ているのか」

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗著、光文社新書、2015年4月、ISBN978-4-334-03854-0、760円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。

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【和田岳 20251024】【公開用】
●「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗著、光文社新書

 生物学を志していた著者は、他の存在に“変身”してその感覚世界を体験したかったという。その後、美学の道に進んで、視覚障害者の身体論を研究することに。著者自身が視覚障害者の接した経験や、インタビューから、視覚障害者が世界をどう把握し行動しているかを描く。
 目が見えないということを“欠けている”と捉えるのではなく、別の感覚世界に生きていると捉える。そのメッセージが繰り返し出てくる。同じ世界に暮らしながら、違った感覚世界に生きる人。そうした人々が、世界をどんな風に感じているか、いわば異文化交流の視点で紹介していく。
 限られた情報から頭の中に地図や図形を思い浮かべて修正を繰り返していく空間認識。耳で見て、指で読んで、足でさぐる。目が見えていると使わない感覚世界の話は興味深い。目の見えない人が美術館の展示を楽しむソーシャル・ビューという試みも紹介される。
 読めば、視覚障害を持っている人が認識している世界の一端を知ることができる。それは、福祉よりさらに基本的な部分で、視覚に障害のある人とのつき合い方を考えさせてくれる。

 お薦め度:★★★★  対象:違った感覚世界というものを知りたい人、障害のある人とのつき合い方を考えたい人
【里井敬 20251022】
●「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗著、光文社新書

 視覚障害者の人たちにインタビュウしながら、「見えない人」の見え方の世界を垣間見る本です。生まれつき全盲か中途失明かで様子は違うし、多くの事例を扱っているわけではないが、ふうんと思う内容が多い。
 視覚障害者は、感覚の中から視覚を取り除いただけではない。多くの情報が一度に入ってくるのではないので、物事のとらえ方がシンプルだ、大岡山を歩いて居るとき、地名の情報と足の感覚から、大岡山を『山』と認識する。空間把握も違う。見える人の山は平面だが、見えない人は立体である。ちゃんと色彩に対するイメージもある。
 他人の言葉によって『見る』ので、言葉が変わるとがらっとイメージは変わるし、他人の目を通して『見る』と本当にそのように見えてくる。見える人も言語化することによって見え方が変わったり、見える人が実は見えていなかったりする。

 お薦め度:★★★  対象:見えない人の見え方に興味のある人
【萩野哲 20250920】
●「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗著、光文社新書

 人は視覚の動物で、情報の8〜9割は視覚に由来する。ならば、眼の見えない人は見える人と比較して多大なハンディキャップがあるのか?いや、違う!見えないことは障害ではなく、別の能力を持っていると考えられるらしい。空間認識では、見える人が二次元で、見えない人は三次元、見える人には必ず死角(視覚ではなく)があるとも。そうなら、見えない人は見える人より劣っているのではなく、対等、場合によっては優れた存在である。本書の命題は、ほぼ序章に要約されており、その後の5章はその詳細説明である。この問題は情報ベースではなく意味ベースで考えることが重要であるが、残念ながら現在の福祉政策でもその視点は欠けている。

 お薦め度:★★★  対象:見えないとはどういうことか知りたい人
【森住奈穂 20251024】
●「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗著、光文社新書

 目を使わずに世界をとらえる。それはどのように行われているのか。美学という「感性的な認識を言葉にする」という学問と現代アートが専門の著者が著す新しい身体論。視覚障害者がどのように耳や手や足を使っているのか。本書に出てくるエピソードを読むと、晴眼者は身体を限定的にしか使えていないことに気づかされる。また、視覚障害者の豊かな感覚の世界に驚かされる。ボルダリングとマッサージの共通点なんて、なかなか気づけない!もともと生物学者を目指していたという著者。美学と生物学をクロスさせ、「身体」について追求している。

 お薦め度:★★★  対象:身体の可能性について知りたいひと
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