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本の紹介「レヴィ=ストロース入門」

「レヴィ=ストロース入門」小田亮著、ちくま新書、2000年10月、ISBN4-480-05865-6、700円+税


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【和田岳 20060217】【公開用】
●「レヴィ=ストロース入門」小田亮著、ちくま新書

 レヴィ=ストロースにきわめて好意的な著者によるレヴィ=ストロースの紹介本。読みにくい文章も散見されるが、全体としてはわかりやすい入門書になっている。 第1章で近代の西洋思想に対するレヴィ=ストロースのスタンスがまず紹介された後、第2章では、レヴィ=ストロースの構造主義が紹介される。誤解されやり構造という語の意味を理解することができる。第3章と第5章は、レヴィ=ストロースの構造主義的研究の実践編。第3章では、交叉イトコ婚の説明と、さまざまな婚姻集団が存在する意味。第5章では、神話の解体の実例を紹介。レヴィ=ストロースは神話の解体によって「人間が神話のなかでいかに思考するかではなく、神話が人間のなかで、人間に知られることなく、いかに思考するか」を示そうとしたらしい。なかなか刺激的。
 この本がレヴィ=ストロースのことを正確に紹介しているかどうかは、どうでもいいだろう。科学あるいは生物学の世界に照らし合わせて、その方法論をあらためて考えてみる。そんなきっかけになる本。

 お薦め度:★★★  対象:自分の方法論を見つめ直してみようと思う研究者、もしくは研究とは何かを考えてみようと思う人、または西洋の近代思想について考え直してみたい人、あるいは構造主義ってなに?と思う人

【瀧端真理子 20060218】
●「レヴィ=ストロース入門」小田亮著、ちくま新書

 レヴィ=ストロースの代表的著作を順に紹介しながら、現代思想のある種の見取り図を示した意欲作。ただ、こうした本につきまとう問題だが、結局、原典に当たらないとレヴィ=ストロース本人が何を言ってるのか、小田さんのレヴィ=ストロース理解が正しいのかどうか分からない。そして、フランス語が読めたっけ?という難題に突き当たってしまう。
 それはさておき、本書によれば、『親族の基本構造』におけるレヴィ=ストロースの革命性は、自集団と他集団のあいだの「女性の交換」による互酬的な関係、社会を生成する交換関係(連帯)のための様態として、家族や親族集団が出現した、と従来の見方を転覆させた点にある。また、レヴィ=ストロースは神話研究を通じ、「同一性をもち、他者や周囲に意味を与え、計画的かつ意識的にものごとを作り出したり選択することのできる『主体』という考え方」が、一つの社会(西欧近代社会)でのみ通用する「常識」にすぎないとし、人間の主体を解体させてしまった。
 小田は、「野生の思考」を、統合や同一性の原理を拒み、独自性と多価性を失うことなく、他の人々と<顔>のみえる関係性(真正な結びつき)を保つことができる思考と捉え、グローバリゼーションと国民国家の二者択一から逃れる有効な想像力であると結んでいる。

 お薦め度:★★★  対象:耳学問をもう一歩進めたい人

【六車恭子 20051213】
●「レヴィ=ストロース入門」小田亮著、ちくま新書

 激動の20世紀に忘れてはならない思想体系があった!レヴィ=ストロースの構造主義は究極において西欧的自我を解体し消滅に至る課程だったようだ。
 ユダヤ人ゆえに若くしてアメリカに亡命し、第二次世界大戦前夜、亡命フランス人の学者たちを中心にニューヨーク高等自由学院が開かれ、そこで「構造主義」的思念は生まれた。西洋文明という単一な文化がナンビクワラ人社会の伝統を破壊する時、彼らの中で連綿と継続して来た婚姻の制度に豊かな知恵を見い出しえたのは構造主義的視点のゆえだ。要素と要素のあいだの関係もすべて変化しているにも関わらずなお不変の関係が出現する、その不思議なものが<構造>といえるかもしれません。交信不能の遠隔地の神話との類似を分析する手際も鮮やかだ。「神話の大地は丸く」神話変換の連綿の果てに元に戻ったと説明する。私たち各自がものごとの起こる交叉点、レヴィ=ストロースはただ神話群が通り過ぎる場であろうと努めたのだ!他者の理性に自己を開く、優れた一つの対話の有り様に思えて来た。

 お薦め度:★★★  対象:フィールドワークを分析的にすすめたい人

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