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本の紹介「恐竜と共に滅びた文明」

「恐竜と共に滅びた文明」浅川嘉富著、徳間書店、2004年8月、ISBN4-19-861900-X、1400円+税


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【中条武司 20070217】
●「恐竜と共に滅びた文明」浅川嘉富著、徳間書店

 人類と恐竜が同じ時代を生きており、“先史”人類が高度な文明を持っていた。および彗星が近づくことによって地球上に大量の水がもたらされ、“ノアの洪水”が起こり恐竜や先史文明が滅びたという本書の指摘は、様々なアイデアを含んでいる。査読者は化石や遺物のことについては専門外のため、著者が指摘する様々な化石や遺物の観点から述べる地球史や生物の進化についての主張についてはコメントできないが、それ以外にも数々の問題点がある。逐一それを指摘するのは困難であるので、査読者の専門である、地質学的観点から見た大きな問題点をいくつか述べるにとどめる。

1.「5章 放射年代法の幻想」について
 著者はC14年代法以外のあらゆる放射年代法は信頼にならないと主張しているが、その論拠が不明である。理論的にはC14年代もその他の放射年代法もまったく同じである。著者が放射年代の間違いを指摘する例として、現世火成岩の年代をK-Ar法での測定結果が著しく誤差があると指摘するが、それは著者自身が指摘しているように、それぞれの放射年代法には年代測定に適した年代というものがある。K-Ar法では数万年より新しい年代測定は不適であるということはわかっていることである。その上でC14法のみが正しいとするのは、都合のいいデータを出しているもののみを利用しているように見える。

2.「第7章 恐竜と先史文明を滅ぼした大洪水」について
・現在の地球上の潮汐は大半が月からの起潮力によるものである。著者の指摘する“月”の内部が空洞だという主張によると、現在の地球上の潮汐がいじできないが、その点はどう考えるのか。
・マチュピチュがもともとは丘陵地に立てられ、現在の絶壁にあるのは大洪水のなごりだと著者は指摘するが、地球上のその他の地形形成はどのように考えるのか。ごく最近に形成された沖積平野以外の地球上の地形が非常に急峻ならその指摘は正しいかもしれないが、実際には急峻な地形は山岳地帯と深海の一部のみである。

3.「第4章 創造論科学が明かす「地層・化石生成」の真実」について
 本章は著者の理論構築の一番大事な部分と思われるが、明らかな誤認が多数見受けられる。代表的な問題点・間違いを指摘するに留める。
・地球上にはノアの洪水以前・以後のひとつの不整合しかないと指摘した上で理論を展開しているが、地球上に不整合は無数に存在する。
・地層形成についての知識が抜けている。「斉一論」での地層形成は均等に進むと指摘しているが、そんなことはなく、大小のカタストロフィックな土砂供給と無堆積または細粒物の堆積が繰り返されると普通は考えられる。それは著者の指摘するように現世堆積作用と地層を見ればわかることであり、著者の指摘は的はずれである。
・地球上の土砂供給などの収支が合わないと指摘するが、物質循環の観点が全く抜けている。プレートテクトニクスなどの構造運動をまったく無視している。
・「水の振り分け現象」により現在の化石の累重様式ができたと指摘するが、「水の振り分け現象」についてはまったくの間違い。ペットボトルなどを用いた簡単な実験でわかることである。
・堆積岩のみで地球の形成年代を議論しているが、地球上に多く存在する深成岩・変成岩への解釈がまったくない。どう考えるのか。

 以上、総合すると著者の化石・遺物から展開する主張は新たな示唆を含んでいるが、問題点が多数ある。査読者の指摘を再検討して再投稿を求める。


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