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本の紹介「クマが樹に登ると」

「クマが樹に登ると クマからはじまる森のつながり」小池伸介著、東海大学出版会、2013年9月、ISBN978-4-486-01993-0、2000円+税


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【萩野哲 20131130】【公開用】
●「クマが樹に登ると」小池伸介著、東海大学出版会

 クマの研究を始めた当初、著者はクマの糞を集め、食性解析を行っていたが、その種類によって原型が残っていたりいなかったりで、きちんとした食性解析は困難であった。しかし、残っている種子に目を向けると、クマの種子散布者としての面が浮かび上がってきた。種の判定のため糞中の各種の種子を発芽させて識別する、どの成熟度の種子をクマが食べるか個々の果実に標識をつける、外果皮色と糖度の関係を測定する、クマ以外にもどのような動物が果実を食べにくるのか自動撮影で確認する、動物園のクマに種子を食べさせて体内滞留時間を測定する、GPSテレメトリーによるクマの移動距離から種子の散布距離を推定する、更に、糞として散布された種子がどのような運命をたどるか、二次散布者としての糞虫を調査する・・・など、多面的に解析していく地道なフィールド調査の過程が本書には詰め込まれている。

 お薦め度:★★★  対象:フィールド調査のアプローチに興味がある人

【和田岳 20131213】
●「クマが樹に登ると」小池伸介著、東海大学出版会

 「フィールドの生物学シリーズ」の1冊だが、珍しい事に海外に行かない。フィールド立ち上げの苦労もあまりない。クマの果実食から種子散布と、みずからの研究成果が紹介される。
 最初はクマの糞分析の話。そのままクマの食性の話になるかと思ったら、種子散布の方に展開する。中型食肉類の果実食を調べたと思ったら、クマによるタネの散布距離(つまりどのくらい移動して糞をするか)、クマ糞に含まれていたタネの運命。そこではネズミや糞虫が活躍する。「クマからはじまる森のつながり」という副題の通り、種子散布のテーマでどんどん話が拡がって行く。動物側でこれだけ真面目に種子散布研究に取り組んでいる例は少ないと思う。ただ、種子散布に興味のある人にはいいけれど、単なるクマ好きだと、最後まで読み通せるかあやしい。

 お薦め度:★★★  対象:哺乳類による種子散布に興味のある人

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