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本の紹介「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」

「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」齋藤慈子・平石界・久世濃子編、東京大学出版会、2019年10月、ISBN978-4-13-063373-4、2600円+税

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【和田岳 20200220】【公開用】
●「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」齋藤慈子・平石界・久世濃子編、東京大学出版会

 動物の子育てから、人間の子育てを考える本。と聞くと怪しい本としか思えないけど、意外な事にまともな内容。むしろ、動物のさまざまな子育てを知る事で、近頃蔓延している(らしい。知らんかったけど)“〜すべき”という巷の子育て論をやっつけるために企画された一冊。
 イントロを兼ねた第1部は、イントロを兼ねて、ヒトを研究している人が書いている。第2部からは、18人の研究者によって、18種類の動物の子育てが紹介される。どの章も、まず対象の動物の紹介があって、どんな子育てをするかが紹介され、人間の子育てにつながる部分がピックアップされる。さらに、著者の研究略歴と、自身の子育てエピソードがつづられる。人間やサルの研究をしていると、子どもをまるで研究対象のように観察してしまうのは、研究者あるあるのようで面白い。理屈で分かっていても、我が子にはうまく対応できないというのも、ごく普通にあるらしい。
 ヒトの研究者はもちろん、サル(イルカも?)の研究者は多かれ少なかれヒトを意識して研究しているようなのが面白かった。 さまざまな動物の子育てを一覧できるという意味では、子育てにまったく関与していなくても、楽しめる一冊。

 お薦め度:★★★  対象:人間の子育てを見つめ直したい人
【六車恭子 20200220】
●「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」齋藤慈子・平石界・久世濃子編、東京大学出版会

 今回それぞれの研究者が執筆した動物たちの子育ての報告は、書き手自身も、子育ての真っ最中という経緯がある。
 子育てを進化の視点から読みとこうとされている。親の持っている資源(時間、体力、財産)が有限だからたくさんの子を産むていう対抗策がとられているのだ。進化で重要なのは遺伝子を残すこと、子孫の数を増やすという至上命令があるのだ。
 授乳中の母親が死ぬと多くの場合、子ザルは死亡する。しかし、ドバトやカワラバトはオスでも「そのう乳」を出して子育てをする。抱卵期間も半分の時間参加する(オペラント条件づけ)、よい結果がともなうと頻度は上がる。
 熱帯雨林の樹冠を住みかとするアジアのジャワ島やスマトラ島などに生息する美しい声の主、テナガザルは「夫婦でデュエット」して絆を強める。親の歌声は子守唄のように子に受け継がれる。
 最も人に近い「理想のお母さん」、樹上生活者のオ一ランウ一タンは寿命は60才、究極の「少子社会」を作り上げた。
 また分業化をおしすすめて、女系家族のアリ、パパは超イクメン「マ一モット」、ママは放任主義、でも社会全体で子どもをそだてるゴリラ、ペンギンもまたコロニ一で共同保育をする。口内保育をする淡水魚のシクリット、たくさん卵を産むマンボウ。「子どもを育てるための正解はひとつではない」子育てとは生存のために行う。あらゆる機能の行動が展開されているのだ、と納得できた。

 お薦め度:★★★  対象:子育てに悩むあなた
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