友の会読書サークルBooks

本の紹介「個性のわかる脳科学」

「個性のわかる脳科学」金井良太著、岩波科学ライブラリー、ISBN978-4-00-029571-0、2010年6月、1200円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]


【和田岳 20111028】【公開用】
●「個性のわかる脳科学」金井良太著、岩波科学ライブラリー

 人間一人一人の違いが、脳のどの部分のどのような違いに基づいているのか。こうした個人差を脳の構造で説明しようとする研究分野を紹介。
 睡眠不足は不幸を招く。孤独感は伝染する。と書くと、テレビのバラエティ番組でいい加減に紹介されている科学と称するものを彷彿とさせる。が、きちんと調べた研究結果から、そうした現象があるらしいことが示されている。そうしたトピックにもまして気になるのが、脳科学の進歩が社会に与える可能性。
 脳の構造が個人の個性を決めているとしたら、脳に刺激を与えるなどして構造を変え、個人の個性を変え、行動をコントロールし、さらには社会までも制御できるかもしれない。個人差の脳科学の発達は、こうした夢物語のような事を、現実の脳テクノロジーとして実現するかもしれない。SFの世界の話だとばかり思っていたら、あながち笑ってはすまされないちょっと恐ろしげな可能性まで見え隠れする。

 お薦め度:★★★  対象:SF好き

【釋知恵子 20111219】
●「個性のわかる脳科学」金井良太著、岩波科学ライブラリー

 試験前に脳を刺激したら、記憶力が増すようになればいいのにとか、誰もが思い描いた夢のようなことが、今現在できそうになっている。本書では、個人の性格や能力がどのように脳構造の違いに表れ、個性を含めた人間の気持ちが脳の働きにも影響を与えるという脳科学研究の最先端の事例を紹介している。実際、脳を刺激して試験対策ができたり、脳構造を見ることで自分がとてもなりたい職業には向かないことがわかったりしたら、努力することが虚しすぎて、「わかっても言わないでほしい」という気がする。でも、そういった研究がアルツハイマーとかの病気の治療に役立つということもあるだなあ。脳研究を、もっと進めてほしいような、ほしくないような、はっきりしない気持ちになった。

 お薦め度:★★★  対象:自分のことに興味がある人に

【六車恭子 20120224】
●「個性のわかる脳科学」金井良太著、岩波科学ライブラリー

 本来説明不能だった領域が数値やデータで示せるようになりつつある!なぜ脳に意識が宿るのか?世界を経験する主体として「私」は脳の中にいる。それは主観的な感覚「クオリア」があるから。脳科学の予測が意味のあるものになるには未来の不確かさを減らすことに尽きる。そのための脳構造解析が今後の社会的な実用性を持つためには最初のライバルが人間の他人に対する直感的な「印象」だ、と述べる著者の機械相手ではない苦渋がうかがえる。
 脳の構造解析が個人のおかれた社会的な状態を脳の違いとして捉え、有用な応用が期待できる一方、そのむこうの近未来をも支配してゆくかもしれない一抹の危惧を禁じえない。

 お薦め度:★★★  対象:より深く自分自身を知りたい人

[トップページ][本の紹介][会合の記録]