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本の紹介「枯木ワンダーランド」
「枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫・菌・動物と森林生態系」深澤遊著、築地書館、2023年6月、ISBN978-4-8067-1653-2、2400円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【萩野哲 20250816】【公開用】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
本書は枯木が森林生態系の中でどれほど貢献しているか、虫、菌、動物との関わりを教えてくれる。まず第1部では“枯木ホテル”の住人達、コケ、変形菌、キノコ、腐生ラン、動物、更には環境DNAでしか検出されていない謎の生物まで含めた6つの章で、彼らの特性とふるまいを紹介している。菌糸体が成長方向の記憶を持つことや、4億年前に木本植物がリグニンを作るようになり、それを分解できる白色腐朽菌が進化するまでに時間がかかったため石炭紀が存在したなど、実に興味深い。第2部では木の分解、枯死、絶滅、生態系サービスを4つの章で紹介している。巨大な枯木の存在は生物多様性にとって非常に重要で、森の自然度の指標である。腐植食物網は一見無駄が多いが、これが生態系の安定性に大きく貢献しているのだ。第11章では倒木更新が紹介されている。人類は複雑な森林生態系の仕組みを正しく理解し、枯木から受けている恩恵を認識すべきだろう。
お薦め度:★★★★ 対象:枯木から受けている恩恵を正しく認識したい人
【里井敬 20251022】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
庭の枯れたコナラを放置したら、ツキヨタケが生えてきて居ながらにして発光が見られた。どんな庭や!と思ったら宮城県の山の中。枯れ木があることによってキノコや昆虫など面白い生き物に出会える。実際の森の中でもコケや変形菌、キノコがネットワークを作って生きている。樹木間で菌根菌を介した炭素のやりとりが行われている。樹木が枯れて腐り始めるとき分解する菌類の種類が多いほど分解が遅れる。枯れ木があると依存する生き物は多く、生物の多様性につながっている。
マツ枯れの起こった森も倒木があれば再生する可能性がある。また枯れ木の存在が炭素の保存に役立っている。森林バイオマスの利用が推進されているが、大きな木が育つのに何十年もかかるが、燃やすのは一瞬だ。古木や巨木が多く、枯れ木の多い森は生物多様性に優れ炭素の貯留に役立っている。
お薦め度:★★★★ 対象:苔むした森の好きな人
【冨永則子 20250815】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
樹木が枯れる。何らかの要因で樹勢が弱ってたり、台風などの大風だったり、状況はいろいろあるが、命を終え倒れた木は時間をかけて分解されていく。木の表面で、幹の中で、その分解の過程では様々な生き物たちが関わっている。それはキノコや苔など人の目に見えるものから目には見えないウィルスにまで至る。1部ではキノコ少年だった著者が枯木の上で出会ってきた色々な生き物が紹介され、2部では地球規模の出来事に枯木がどう関係するのかがまとめられている。枯木や倒木をバイオマスなどのエネルギー資源とだけ捉えていては二酸化炭素の排出量は増えるだけだとか、物事の一面だけを見ていてはいけないなと思わされた。また、枯木を分解する菌糸体には記憶力などの知性があることにも驚いた。樹洞がどうしてできるのかが理解できたことが一番の収穫だった。
お薦め度:★★★ 対象:この地球が人間の目に見えているものだけで出来ているのではないことを知りたい人に
【西本由佳 20250816】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
専門が違えば見えるものが違う。1本の木の死は、普通の人にしたら少しもの哀しいことのような気がするが、著者にとっては菌類たちの興味深い活動の始まりとなる。もちろん、生きている間も木は菌と関わっている。2種類のグループの共生菌があり、片方が優勢なところではもう片方と仲のよい木は育ちにくかったりするらしい。でも本番は死んだあと。マツ枯れもナラ枯れも菌類学者には問題とならず、静観。むしろわくわく見守っているように見える。ただ、虫たちの住処となることを考えれば、虫好きな人たちも同類かも。海外の古木の少ないところでは、腐朽の進んだ木にすむ希少な昆虫や菌類たちのために、わざわざ木材腐朽菌をうえることもあるらしい。森で特定の生物グループだけを見て満足するのではなく、視野を広げることも必要なようだ。
お薦め度:★★★ 対象:森へ行く人
【萩野哲 20250816】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
本書は枯木が森林生態系の中でどれほど貢献しているか、虫、菌、動物との関わりを教えてくれる。まず第1部では“枯木ホテル”の住人達、コケ、変形菌、キノコ、腐生ラン、動物、更には環境DNAでしか検出されていない謎の生物まで含めた6つの章で、彼らの特性とふるまいを紹介している。菌糸体が成長方向の記憶を持つことや、4億年前に木本植物がリグニンを作るようになり、それを分解できる白色腐朽菌が進化するまでに時間がかかったため石炭紀が存在したなど、実に興味深い。第2部では木の分解、枯死、絶滅、生態系サービスを4つの章で紹介している。巨大な枯木の存在は生物多様性にとって非常に重要で、森の自然度の指標である。腐植食物網は一見無駄が多いが、これが生態系の安定性に大きく貢献しているのだ。第11章では倒木更新が紹介されている。人類は複雑な森林生態系の仕組みを正しく理解し、枯木から受けている恩恵を認識すべきだろう。
お薦め度:★★★★ 対象:枯木から受けている恩恵を正しく認識したい人
【森住奈穂 20250821】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
知らないことばかりだなぁ。本書を読んでいちばんに感じたことである。枯木を分解する菌類の種類によって、腐朽材が褐色腐朽と白色腐朽に分かれること。そういえば茶色のと白色の朽木があるなぁ。この腐朽型の違いによって、枯木に集まるコケや甲虫類の種類が変わるそう。褐色腐朽材は酸性、貧栄養、難分解のため、他種との競争に弱い種が住んでいるらしい。落葉、特に落枝(枯木)が窒素やリンを吸収して、カワウの糞の影響を抑えているらしい。菌根菌ネットワーク、樹洞を作る心材腐朽菌を使ったベテラナイゼーション、保持林業、倒木更新。いろいろ勉強になる。読み終わると枯木が宝の山に見えてきて、枯れる=死ぬ=終わり、というイメージを鮮やかに覆す。
お薦め度:★★★ 対象:枯木は薪以外に利用価値がないと思っているひと
【和田岳 20251024】
●「枯木ワンダーランド」深澤遊著、築地書館
枯死木はさまざまな生物に利用される。どんな生きものにどのように利用されているのか。枯死木は生物多様性の維持や地球環境にどのように関わっているのか。枯死とそれを利用する生物をめぐる世界が紹介される。
第1部は、枯木ホテルの住人達として、コケ、変形菌、キノコ、腐生ラン、哺乳類や昆虫、微生物が次々と紹介される。まだまだ謎だらけだが、紹介されるその一端だけでも、未知の多様な世界がひろがっていることが分かる。
第2部は、枯木が世界をすくう。枯木を利用する分類群を横断的に、その生態系での機能面が紹介される。リグニンを残してセルロースだけ利用する褐色腐朽菌と、リグニンまで分解する白色腐朽菌の腐食連鎖における違い。虫や台風や森林火災による大量枯死の影響。枯木撤去が生物多様性与える影響。枯木の炭素貯留。意外と普遍的な倒木更新。
枯木を舞台にこれだけ多様な生物が活躍し、こんなに興味深い研究が進められているとは、ろくに知らなかった。枯木が思ったより分解されないのは意外だったし、褐色腐朽と白色腐朽で、こんなに生物相に違いがあるとも知らなかった。知らないことだらけで楽しく、これから枯木を見る目が変わりそう。
お薦め度:★★★★ 対象:身近なワンダーランドにふれたい人
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