友の会読書サークルBooks

本の紹介「感染症と文明」

「感染症と文明」山本太郎著、岩波新書、1999年1月、ISBN978-4-00-006665-5、1900円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

[トップページ][本の紹介][会合の記録]


【加納康嗣 20111222】
●「感染症と文明」山本太郎著、岩波新書

 感染症と人類との関係を文明の発祥にさかのぼって考察する。農耕の開始と定住が人口増と過密を生みだして感染症流行の土壌を提供し、野生動物の家畜化が動物から新たな感染症を受けとった。このように文明が人社会に感染症を根付かせたことを考察し、さらにマラリヤやペスト、天然痘、麻疹、結核などについて社会が作り上げた流行の諸相が描かれる。また開発が新たな感染症をもたらすことにも言及する。近代医学は感染症の制圧に努力を続けている。しかし人類の行動が選択圧となって病原体も進化する。病原体の根絶は過去の感染症に抵抗性を持った遺伝子を、淘汰に対して中立化する。根絶は行き過ぎた「適応」と言えなくもない。長い目で見てそれが人類に与える影響は無視できない。
 決して心地よいとは言えない妥協の産物ではあるが、病原体の制圧でなく対価を支払う個人が発生することも認めながら、共生の考え方が必要となると結んでいる。
 読みやすくわかりやすい。文明と感染症との関係をよく理解できる。

 お薦め度:★★★  対象:文明や人類進化などに関心がある人

[トップページ][本の紹介][会合の記録]