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本の紹介「環境問題とは何か」

「環境問題とは何か」富山和子著、PHP新書、2001年10月、ISBN4-569-61846-4、660円+税


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【西村寿雄 20031023】
●「環境問題とは何か」富山和子著、PHP新書

 「自然を守ることは農林漁業を守ること」と一貫して主張する。とりわけ日本の稲作文化が,どれだけ日本の〈水〉を作り出すことに貢献してきたか,歴史を追い各地の事例を追って検証する。そして「21世紀の環境問題は〈水と土〉にある」と言い切る。
 第1章「自然に対する思い違いをしていないか」で,かつての山の文化を紹介し,荒廃した日本列島を緑の山にしてきた人々に思いをはせよと説く。その人たちの努力が実ってやっと緑の国土と化した今「日本の山々は担い手を失って,伐るべき木も伐られずに放置されている。」と問題視し,「外材優遇策による林業の駆逐こそ,環境破壊の第1弾」と指摘する。
 第2章「森林はなぜ大切か」で著者は,「木ばかり見ないで土を見よ」と言う。「水を作り出すのは土壌であり,その土壌の形成者が森林である。」とする。そして「水がほしいのなら木を使おう」と提言する。割り箸は「ものを大切にしたきた日本文化」ととらえ,日本人の割り箸使用を呼びかける。
 第3章「木を植える文化の国」で,各地の荒れ果てた山々が造林によって湧水の山となっている事例を取り上げて,「スギ・ヒノキを馬鹿にするな」と憤る。広葉樹林地よりもスギ・ヒノキ林の方が保水力が高いからだ。
 第4章では,縄文の時代から先人は木を植え使い続けてきたことを説き,それを促したのは「米」であることを実証する。第5章で,「水田は降水を受け止める治水のダムであり,川の水を生産する利水のダムである」と位置づけ,農業用水の大切さを訴える。そこで都市部での渇水問題に切り込む。渇水対策のために公共土木工事が次々となされていく現状の中で,どれほどまでにかつて〈水を作ってきた〉側の山の人々に思いをいだいているか切々と説く。
 第5章「〈持続可能な開発〉とは何か」で,水がいるなら〈山村の活性化から〉と提言する。都市の価値観に支配された今の水行政に問題を投げかける。しかも,これは都市部に住む人々にも正しく水問題が報道されてこなかったことをも問題とする。第7章「環境問題を考える姿勢」で国民が何事にも「問題意識を持つこと」の重要性を訴える。そのためには,直接経験以上に読書の大切さを説く。,議員一票の格差問題も〈面積で考えよ〉と提言する。第8章「環境問題の終着駅、海」で,森林が魚や昆布,カキをを養ってきたことを例示し,営林署問題などでの今の林野行政の誤った方向を指摘している。
 読んでいて,〈自然環境〉という言葉の重みについて多々知らされる。環境問題を考えるには農林業問題と切り離せないと痛感する。

 お薦め度:★★★  対象:

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