東京教育大学での学生時代に「野外研究同好会」に所属して自然保護教育に目覚めた著者が、現在の勤務先、国立科学博物館附属教育園(東京都港区)で、カワセミの繁殖記録に取り組んだ8年間の記録集。鳥が専門ではない著者は、自然教育園の残材焼却用の穴にカワセミの巣穴を発見し、「あの空色のちいさなもの」に胸をドキドキさせます。
親鳥が運ぶエサの向きを解明すべく、居酒屋でワカサギの唐揚とカワエビの唐揚を注文して試食したり、カワセミの繁殖を自宅で観察している岐阜の三浦家を訪問するのが銀婚式の記念旅行だったりと、プロともアマとも分かちがたい熱っぽさで、最後まで読ませてくれます。4年目からは、ビデオ機器による観察を導入、ここまでやるか?と思わせるような詳細な観察を続けますが、6年目の巣立ちの朝の実況中継がクライマックスになっています。
カワセミの繁殖実態よりも、ついつい矢野さんの行動に興味がいってしまいますが、第6章では産卵と抱卵、第7章では給餌回数、巣立ち前のダイエットなどが、実に丁寧に紹介されています。カワセミのカラー・白黒写真の数々も楽しめる一冊です。
お薦め度:★★ 対象:初級向き・観察記録の取り方の一例に
カワセミの繁殖を、何年にもわたって、ものすごい時間をかけて観察した結果を、一般向けにまとめた本。
とにかくビデオを使って、ほぼ毎日朝から晩まで観察した1993年〜1995年のデータはすごい。一つがいのカワセミの繁殖をまるごと知りたい、といった雰囲気が全体にただよっている。
カワセミの繁殖の全体像を知りたい場合には、便利な本。
お薦め度:★★ 対象:カワセミの繁殖に興味のある人、中学生以上