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本の紹介「人類の起源論争」

「人類の起源論争」エレイン・モーガン著、どうぶつ社、4-88622-311-7、2200円+税


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【六車恭子 20020618】
●「人類の起源論争」エレイン・モーガン著、どうぶつ社

 著者エレイン・モーガンは25年前「女の由来」で私たちの祖先が半水生生活を送っていた!、アクア説(水生類人猿説)を論じ、おりからのウーマン・リブ旋風でベストセラーになった。一般読者の圧倒的支持をえながらも、学術的には無視され続けた。
 英国テレビ界の脚本家の魂はこのアクア説を暖め、育て、補強し、極め、遂に進化させて、連作「人は海辺で進化した」「進化の傷あと」「子宮の中のエイリアン」に継ぐ集大成が本書である。
 1974年エチオピアのハダールの人骨化石、”ルーシー”の化石が語る謎にエレイン・モーガンはアクア説で挑戦する。
 ザイールの森林地帯に住むボノボの生態から、住環境類似の啓示を得て「二足歩行は浅瀬を渡ることから生まれた」と類推する。無毛性は水生生活のへの適応にほかならず、人間の皮下脂肪は体温調節の断熱材であり、水中での浮力を増すのだ。後の地上生活では無毛であったために大量の汗をエクリン腺から排出して体温調節したのだ。類人猿より後退した喉頭も口呼吸が水生生活への適応であり、”体毛’の生えている方向が水流の向きであることも符合する。人類にはない”ヒヒ抗体”は、アファール三角地帯のような水による地理的隔離を経たからこそ絶滅を逃れ、種分化しただろう証左とみる。
 さてこの魅力的で挑発的なアクア説は人類揺籃の地、”アファール三角地帯”へラミダス猿人発掘の夢へと私たちを駆り立てるだろうか?エレイン・モーガンは明らかに人類の起源を問う情熱を私たちに語り続けている。


【和田 岳 20020618】
●「人類の起源論争 アクア説はなぜ異端なのか?」エレイン・モーガン著、どうぶつ社

 一部ではトンデモ本とも評価されるエレイン・モーガンの最新作です。
 アクア説とは、ヒトの初期進化、とくに二足歩行を獲得した頃の生息環境についての説です。簡単に言えば、二足歩行をはじめとするヒトの多くの特徴は、ヒトが一時期水中生活をしており、水中環境への適応の結果うまれたと主張します。本書の中では、二足歩行、薄い体毛 、厚い皮下脂肪 などを中心に、ヒトの特徴がいかに水中生活への適応という視点から理解できるかが論じられています。
 著者は、大学で英文学を学び、脚本家やサイエンスライターとして活躍し、ハーディのアクア説に出会ったそうです。ハーディは最初にアクア説を提示しただけでその後はタッチせず、もっぱらエレイン・モーガンがいくつかの本などで、なぜかフェミニズム論争にからめて展開してきました。そして、エレイン・モーガンの主張は研究者からは無視されているのが現状です。
 
 エレイン・モーガンが研究者から無視されるのは、第一に彼女が科学の世界における議論の進め方をまるで無視して、本やメディアを通じて自分の主張だけを打ち出している点にあると思います。また、おもしろい問題提起がある一方で、なんでも自説に無理矢理結びつけて、冷静な議論をしていない点にも問題があるでしょう。
 個人的には、薄い体毛 、厚い皮下脂肪 などを水中生活に結びつける議論は無理が多いが、「二足歩行が浅瀬を渡る行動から生まれた」 という考え方は、なかなか説得力があるように思います。

 結局の所、こういった個別の進化のストーリーに関する議論は、検証不能な歴史学的側面を強く持ち、科学ではないと言われても仕方がないシナリオ作りです。こういった点を理解した上で、それなりの知識をもった人が批判的に読んだり、批判的に本を読む訓練にはお薦めかもしれません。逆に、本に書いたことを鵜呑みにする人には勧められません。


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