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本の紹介「時間軸で探る日本の鳥」

「時間軸で探る日本の鳥 復元生態学の礎」黒沢令子+江田真毅著、築地書館、2021年3月、ISBN978-4-8067-1614-3、2600円+税


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【萩野哲 20210822】【公開用】
●「時間軸で探る日本の鳥」黒沢令子+江田真毅著、築地書館

 本書は、鳥を時間で探っている複数の研究者の成果をまとめている。田中さんは化石で過去の鳥類相を調べている。顎に歯を持つ鳥類は中生代末で絶滅したらしい。青木さんは鳥類のルーツを系統地理学的手法(遺伝情報を地理情報と照会する)で調べている。コマドリ類などでは、地理的障壁が生じて遺伝的交流が制限され、各々の集団で種分化が起こった。江田さんは遺跡から出土した鳥骨から過去の鳥類の分布を調べている。過去には日本中にアホウドリが分布していたのだ。山本さんと許さんは江戸時代の絵画から鳥類情報を集めている。当時は実物を見ずに転写転写で作画したらしく、同定は容易ではないこともあるようだ。久井さんは江戸時代の文献資料からツルの同定を試みた。植田さんは多くのバードウォッチャーの協力を得て全国の鳥類繁殖分布情報を集め、各種の消長を調べている。平地でも山でも鳴き声をきくウグイスが最も広い分布を持つのは納得だ。佐藤さんは外来捕食者、植林、シカの増加などの人類活動による間接的な鳥類への影響と保全生態学的な対策を紹介している。各々の研究手法や成果は興味深いものであったが、ややそれらの難かしさを強調し過ぎているような読後感が残った。

 お薦め度:★★★  対象:鳥が好きな人
【西本由佳 20210822】
●「時間軸で探る日本の鳥」黒沢令子+江田真毅著、築地書館

 先史時代から現代にいたるまでの鳥と人間のかかわりから、いつ、どこに、どんな鳥がいたのかを明らかにしようとする本。考古資料や歴史資料、市民参加の調査の成果が、それそれの専門家によって示される。過去の鳥の分布は、骨が残っていた場所や文献に書かれている場所、といった、資料が残されている場所がうまく発見できなければ難しい。現代の調査はたくさんのバードウォッチャーの参加のもと、点的にしか得られにくい観察記録を面的に広げていこうとしている。しかしこちらも、調査員の確保という問題を抱えている。鳥のこれからを考えるために、鳥の分布を時間軸で明らかにするのは重要な視点で、研究が進んでほしい。

 お薦め度:★★★  対象:鳥について、少し違った視点から見たい人
【森住奈穂 20210826】
●「時間軸で探る日本の鳥」黒沢令子+江田真毅著、築地書館

 失われたり損なわれたりした生態系を、元のように再生・復元させるための復元生態学。本来の状態を知ることができれば、復元への道筋は見えるはず。温故知新。本書では9人の執筆者が理系・文系の垣根を飛び越えて、過去の鳥のバードウオッチングを試みている。個人的には、江戸時代の文献資料からツルの同定と分布を探る第5章に興味をそそられた。武家に愛されたツルは鷹狩の獲物として、また贈答品として史料が豊富なのだそうだ。しかし、立ちはだかるくずし字の壁。そして膨大な史料から「ツルがいそうな」史料を嗅ぎ分ける嗅覚を養うための鍛錬とも呼べる日々。修行のような宝探しのような。諦めかけたそのとき、不意に立ち現れる鶴!文献調査とバードウオッチングに共通点があるという著者の視点が面白かった。

 お薦め度:★★  対象:復元生態学の手法を知りたいひと
【和田岳 20210827】
●「時間軸で探る日本の鳥」黒沢令子+江田真毅著、築地書館

 さまざまなメディアを利用して日本の鳥類相と分布の歴史を復元しようとする試みを紹介したってことらしい。第1部は、化石、DNA、考古遺物。第2部は、絵画資料と文献資料。第3部は、現在の鳥類調査、とくに市民調査などを紹介。最後の章は浮いてる。
 第1部は、中生代から新生代の日本の化石鳥類の話が面白いし、DNAベースで、日本の鳥のは知らない事だらけで面白かった。でもデータは限られてる印象が強い。DNAのパートは、日本の鳥の渡来年代やルートが推定されていて面白い。考古遺物の話は、種まで特定できた例としてアホウドリとキジ類に留まっていて物足りない。第2部の図譜や文献の話は、種の同定だけで精一杯。第3部は、おもに全国鳥類繁殖分布調査を軽く紹介しただけ。全体的にバラバラで、物足りない印象が強い。

 お薦め度:★★  対象:日本の鳥類相をさぐるのにどんな手段があるか考えてみたい人
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