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本の紹介「磯魚の生態学」

「磯魚の生態学」奥野良之助著、創元新書、1971年9月、ISBN4-422-00014-4、680円+税


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【六車恭子 20051027】【公開用】
●「磯魚の生態学」奥野良之助著、創元新書

 著者は水族館の飼育係から大学教官に転身した変わり種。70年代世の中は「生態系生態学」というシステム化した巨大科学が風靡していく。奥野氏の「生き物に学び問いかける学問をしよう」はまさに対極の微小科学であった。
 磯で出会う磯魚と田辺湾の漁師の岩城惣八さんが先生だ。その頃であった傷だらけのコブダイは一匹の魚にも豊かな歴史があることを、またセダカスズメダイはある場所に本当に定着している魚は他種ともおりあっていることを教えてくれた。魚の群れは同一の年令個体であり、順位もなくリーダーもいない。ブダイは朝から晩までガラモを齧り、アオブダイはサンゴを齧る、ハタンポは海の床屋を演じる。磯魚というグループは生態学的分類群で最高の段階に達したスズキ目の魚たちだ。
 世の「生態系生態学」が見捨てて来たダーウィン由来の生き物の生活を見つめる「種生態学」を彼は鮮やかに活写する。

 お薦め度:★★★★  対象:魚に興味がなくても最後まで楽しめること請け合い

【田中久美子 20050902】
●「磯魚の生態学」奥野良之助著、創元新書

 磯での観察と、「水槽は異常状態である。」とふまえながら、自然の行動のヒントになるという水槽観察で魚達の行動を追っていく。
 群れで暮らす魚。一見群れを作ってる風で実は個々好き勝手なもの。単独行動のものなど、魚の生活も多種多様。さらに地形、地理、昼行性・夜行性など様々な要素も加えて魚の生態を追っていく。今まで知らなかった魚の個性が見えて面白い。

 お薦め度:★★★(2つ半)  対象:食べるだけじゃなくて大いなる海に棲む魚についてもっと知りたいという人に

【六車恭子 20050505】
●「磯魚の生態学」奥野良之助著、創元新書

 著者は水族館の飼育係から大学教官に転身した変わり種、70年代は大学紛争や公害問題が噴出して時代は混迷を極めた。世の中は「生態系生態学」というシステム化した巨大科学が風靡していく。奥野氏の磯魚をみつめる個人的な微小科学は片隅に追いやられ試練の時だったろう。
 磯で出会う磯魚が彼の目を鍛え推論を練り上げる。動物たちが自分の体を道具として使い、排他的であり相補的に棲み分け、しかも生物の系統からは逃れられない事実に気づく。世の「生態系生態学」が見捨てて来たダーウィン由来の生物の生活を見つめる「種生態学」が彼の領域だ。しかも戦地で果てた若き先人、可児藤吉という種の生活を中心においた”種生態学”の論文「渓流棲昆虫の生態」を哀惜を込めて紹介したり、磯魚のエピソードが満載だ。

 お薦め度:★★★★  対象:魚に興味がなくても最後まで楽しめること請け合い

【和田岳 20050902】
●「磯魚の生態学」奥野良之助著、創元新書

 京都大学に学び、須磨の水族館で働き、金沢大学の教官になった著者が、若かりし頃に書いた正に磯魚と生態学についての本。著者の磯魚の生態や生態学についての想いが、さまざまな形で盛り込まれている。
 不思議な構成の本ではある。第1章で、水槽で飼われているさまざまな磯魚のケンカを観察して、順位制という社会を考える。が、第2章では、水槽の中の魚の行動を“不自然”と、第1章の内容をバッサリ切り捨ててしまう。第3〜5章では、磯魚の磯での生活や適応を紹介。そして問題は、著者の生態学論が書かれている第6章「二つの生態学」。当時の時代背景を多少なりとも知らないとわからないことが、豊富に盛り込まれている。これを読んで生態学ってわけがわからないと思わないこと。今の若手の生態学者が読んでもわけがわからないはずだから。

 お薦め度:★★  対象:昔の京都大学周辺の生態学の雰囲気を知りたい人

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