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本の紹介「標本バカ」

「標本バカ」川田伸一郎著、ブックマン社、2020年10月、ISBN978-4-89308-934-2、2600円+税


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【萩野哲 20210120】【公開用】
●「標本バカ」川田伸一郎著、ブックマン社

 本書は雑誌「ソトコト」の連載コラムをまとめたもので、著者の主な仕事である解剖のみならず、著者の趣味まで紹介されている。それぞれ1回読み切りだが、これらを5章にまとめ、比較的近い話題を集めてある。著者の文章にピッタリの浅野文彦さんのイラストがすばらしい。ゾウの耳小骨についても、このイラストのおかげで大きさが分かった。ゾウは非常に低い音や遠くの音が聴こえるらしい。耳小骨がそのことに関係あるかわからないが、興味深い。また、オサガメの背甲が“不可能なパズル”であることもこの本で知った。著者は標本の重要さを本書で繰り返し述べている。存在の証拠を残すことや変異幅を知ることなのはもちろんであるが、理由を考えずに集めることも重要なのだ。次作「オーストンの標本ラベル」につながる話題もしっかり記述されている。様々な話題の楽しさが、自然史博物館に出入りする人たちと共有できるだろう。

 お薦め度:★★★  対象:自然史博物館友の会会員など
【森住奈穂 20201216】
●「標本バカ」川田伸一郎著、ブックマン社

 モグラ博士のもう一つの日常、それは標本蒐集。本書は雑誌連載の書籍化とのことで、標本作成に向き合う9年もの日々が淡々と綴られている(時系列でないためちょっとややこしい)。無目的、無制限、無計画に収集される標本たちは、いつかの誰か、何かのためにじっとその時を待っている。特筆すべきはイラスト。一話ごとに意趣を凝らしたイラストが添えられており、とにかく楽しい。全頁カラー刷りでイラストだけを眺めても楽しめる。巻末のボーナストラックまで、遊びごころあふれた一冊。

 ※p.234「松戸丼』の由来が判明しました!その昔(1970年代)、千葉県松戸市の荒川で未確認生物が目撃され、付いた名前がマツドドン。その正体がヌートリア説という経緯のようです。

 お薦め度:★★★  対象:博物学の楽しさに触れたいひと
【和田岳 20210225】
●「標本バカ」川田伸一郎著、ブックマン社

 国立科学博物館で哺乳類の標本を作りまくっているモグラ研究者が、標本にからむエピソードを書いた77篇。標本づくりの現場で起きたこと、標本からわかること、標本におもうこと、過去の偉大な標本コレクター、子どもたちに教え込む標本づくり、モグラ愛。自慢も失敗も、なんでも出てくる。
 内容は、業界的には(哺乳類標本をつくる自然史系博物館スタッフの)あるあるな内容がほとんど。肋骨の本数の覚え方とか、ナマケグマの切歯やヤマビーバーの臼歯の形といった形態学的情報は出てくるけど、他にはあまりない。標本作りのエピソードは多いけど、作り方はさほど書いてない。勉強になる本というより、異世界を楽しむ本。

 お薦め度:★★  対象:変人の変な行動を楽しみたい人
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