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本の紹介「ハチはなぜ大量死したのか」

「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋、2009年1月、ISBN978-4-16-371030-3、1905円+税


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【萩野哲 20090422】【公開用】
●「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋

 2005年頃から米国で養蜂業者のミツバチが巣から消えるという不可解な事件が起こってきた。彼らはこの現象をCCD(Colony Collapse Disorder、蜂群崩壊性症候群)と呼んだ。原因は、ミツバチヘギイタダニか、新手の病原体か、農薬か? しかしよく考えてみると、巣礎の発明以降、養蜂の歴史はミツバチ酷使の歴史であり、本来の彼らの性質をねじまげ、限界に達していたのではないか? これらの要因は最後の一押しだったのではないか? と著者は考察する。そして、よりミツバチ本来の性質を前面に出した養蜂の新たな動きを紹介し、提案する。

 お薦め度:★★★  対象:人間の経済活動を考え直したい人

【太田行二 20090427】
●「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋

 先日からテレビで、「全国でミツバチが不足している」と報じられ始めた。いったい何がおこっているのだろうか?この本に寄れば、2005年、何の兆候も無く、突如ミツバチの巣がゴーストタウンになり始めた。そして2007年春には、北半球のミツバチの四分の一が失踪したらしい。疑わしい原因は、農薬や病気やウイルスなど色々有るが、まだ特定できていない。しかし、「ネオニコチノイド」という農薬は、昆虫の神経を麻痺させて、方向感覚を喪失させるらしい。そこで、働き蜂が巣を出た後、巣に帰れなくなっているのではと疑われている。更に、一番気になったのは、あらゆるミツバチが今、驚くほど多くの病気を抱えているという記述だった。免疫性が崩壊していて、まるでエイズのように、あらゆる感染症に掛かり易くなっているのかも知れないとのことだった。「ミツバチが消えたら、4年後に人類も消える」等のアインシュタインの言葉が「ハプニング」という映画の冒頭に出ているが、ミツバチが消えて、受粉ができなくなることで、果物や野菜の80%近くが実を結ばなくなるそうだ。45年前に、レイチェル・カーソンが「沈黙の春」で、「果実の実らない秋」が来そうだと書いているが、蜂群崩壊症候群CCDは、大自然からの最期の警告かもしれない。

 お薦め度:★★★★  対象:何が起こっているのか知りたい人

【加納康嗣 20090423】
●「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン著、文芸春秋

 著者は食と環境に関するライターである。2007年春までに北半球のミツバチの4分の1が消えた。コロニーが崩壊する蜂群崩壊症候群(CCD)の犯人をミステリータッチで追い求める。悪者リストに名を連ねるミツバチヘギイタダニ、アカリンダニ、ハチノスムクゲケシキスイ、アメリカ腐蛆病菌、ウイルス、農薬、抗生物質、栄養不足、地球温暖化等々。この中で浮かび上がってきたことは、80年代以降進められてきた米国型の単位面積当たり収穫高の限界利益を追い求める「工業化された農業」であった。CCDは、自然界からのある種の報復ともいえる。自然の均衡を破って高収益をもたらすアーモンドの受粉のためにミツバチたちは完全に工業的プロセスに組み込まれ、極端に生産性を重視した遺伝的均一性が進められた。病気や寄生虫から守るため各種の強力な薬剤が無原則的に使用された。動的平衡の編み目は自然界全体に広がっているが、自然の均衡を破るほどの負担をミツバチたちにかけるような局所的な効率の増加は、全体の効率の低下をもたらし、場合によっては平衡の致命的な崩壊に繋がる。
 CCDの病原体は明らかになっていない。ある種のウイルスが関与しているかに見える。コロニーが崩壊した巣箱を再利用すると、新しいコロニーも同じ症状に陥る。それはスクレイピー病が発生した草地で新たな羊を飼うと感染が起こることと酷似している。
 ミツバチを季節移動させるような農業でなく、地元の土地が提供するものを地元で消費する地産地消の形態こそ私たちが立ち戻るべき姿だとする著者の立場から、動的平衡に対する無原則な操作的介入によって何がもたらされうるかを告白した書である。

 お薦め度:★★★★  対象:環境のことを考える方

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