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本の紹介「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」

「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社、2021年3月、ISBN978-4-10-350912-7、1450円+税


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【森住奈穂 20210826】【公開用】
●「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社

 小笠原諸島の鳥を研究する著者。南硫黄島、北硫黄島、西島、西之島、南鳥島という一般人が行く術を持たない島々での調査の様子は、見るもの聞くもの全てが物珍しい。テントで休む調査員の顔上で休息を取る海鳥。人も鳥も驚くが、海鳥はその際、吐き戻しをするという…。ナンマンダブナンマンダブ。ザイル伝いに斜面を登っていたら、先行する隊員が視界から消えた…。途中にひっかかって止まった彼は、落ちた落ちたと嬉しそう。笑いながら読める他人の苦労話を盛り込みつつ、固有種だらけの小笠原諸島とは切っても切れぬ生態系保全や絶滅危惧種問題にも触れられる。オガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ。大事な事なので3回書きました。

 お薦め度:★★★★  対象:鳥類学がお役に立つか半信半疑のひと
【冨永則子 20210803】
●「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社

 小笠原諸島を中心に、鳥類の生態や保全の研究をする鳥類学者である著者の毎度おなじみのくどい、いやいや、ウンチクのこもった言い回しが楽しめる。小笠原諸島には100個以上の大小様々な島があり、そこにはそれぞれの生態系があるが、いずれも多くの生物が絶滅の縁に立たされている。それらを如何に保全し、絶滅から守るのか。保全の意義がやや斜め前方から語られる。少なくとも、本著を読んだだけで直ちに鳥類学が私の役に立つとは思えなかったが、著者の研究対象であるオガサワラカワラヒワの普及には役立ったかな?

 お薦め度:★★★  対象:川上和人ファンに
【西本由佳 20210822】
●「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社

 原生自然の残る絶海の孤島、生態系のリセットされた火山島、小笠原の島々にとじこもったり渡り歩いたりする鳥たち。この本で扱うのは、普通の人の生活とは遠い世界だ。だけど著者はとくにとびぬけた人でもなく、クーラーの効いた部屋で空想にふけるのが好きなインドア派。たくさんのフィクション作品と空想のたとえ話で著者の経験したサバイバルな環境を、普通の人の理解の及ぶように語ってくれる(ときどき混乱する)。島に居ついてのどかに暮らしていた生きものは外敵に弱い。小笠原の固有種オガサワラカワラヒワは、外来種のネズミに生息を脅かされながら、しかし外来種の木に繁殖を助けられている。島という少し特殊な環境で生きる生きものたちを理解し、保全のために何が必要か考える、というのがこの本のテーマかもしれない。

 お薦め度:★★★  対象:気軽に読めるけど自然に関心があることが前提かと
【和田岳 20210827】
●「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」川上和人著、新潮社
 川上和人による全編川上節の一冊。当然ながら途中で飽きてくる。でも内容は読みやすく、面白い。例によって数行で書ける内容を、数ページかけて語るきらいがあるので、脱線を楽しむ心の余裕が必要。お急ぎの方は、“おわりに”だけを読めばいいと思う。タイトルにつながる大切な内容はそこに書いてある。あいかわらずシャイな著者である。
 第1章で南硫黄島、第4章で西之島。一般人には行く手段もなければ、上陸許可でも出ない島での調査の様子がつづられていて、とても興味深い。ここは必読。さらに第6章の3つめの南鳥島滞在記も絶海の島シリーズとしてはずせない。
 あとは、小笠原のエピソードが並ぶ第2章(2つめ以外)、第5章の1つめ、第6章の2つめと4つめと5つめは、さすがという感じの話も出てくるので読んだ方がいい。残りはご自由に。

 お薦め度:★★★  対象:川上和人ファン、あるいは島の鳥に興味がある人、絶海の孤島に行ってみたい人
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