日本鳥学会員近畿地区懇談会:例会の講演要旨

2006年2010年


 2006年の例会から、講演者の協力が得られる範囲において、講演内容の要旨を掲載し、記録にとどめておくことになりました。講演者の諸都合で、講演要旨が掲載されない場合も多いので、御了解ください。
 なお、講演要旨の内容は、すべて講演者の判断に基づくものです。このサイトの管理者は一切関知しません。
 また、掲載した講演要旨の内容の著作権は著者に帰属します。転載などを希望される場合は、必ず著者の了解を得て下さい。著者への連絡を希望される場合は、和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。

【2011年】
○第103回例会(2011年12月11日:奈良女子大学理学部 G棟3階 G302)
1. 野間直彦「シカ増加にともなう屋久島西部照葉樹林の鳥類種構成変化」
2. 川瀬 浩「今、コマドリにおきていること」
3. 高須夫悟「鳥類育児寄生における卵色多型の集団遺伝モデル」

【2010年】
○第99回例会(2010年7月3日:森林総合研究所関西支所)
1.藤田素子「熱帯山地林における鳥類によるリンの運搬」
2.山崎良啓・藤津亜季子・直江将司・正木隆・井鷺裕司「ミズキの結実フェノロジーと訪問する鳥類の季節変化」
3.関伸一「私が島にかよう理由:南の島のアカヒゲの生物地理」
4.安藤温子・兼子伸吾・鈴木創・堀越和夫・高野肇・関伸一・小川裕子・井鷺裕司「マイクロサテライトマーカーを用いた絶滅危惧種アカガシラカラスバトの遺伝解析」

【2006年】
○第85回例会(2006年4月1日:伊丹市スワンホール)
2.太田貴大「DNAを用いた鳥類の系統解析と生物地理学 〜日本固有種アオゲラとユーラシア大陸広域種ヤマゲラとの関係を探る〜

○第87回例会(2006年7月31日:滋賀県立琵琶湖博物館セミナー室)
1.須川恒「渡り鳥は琵琶湖と東アジアをつなぐ
2.Dr. Yossi Leshem「Migrating Birds Know No Boundaries: Applying an Interdisciplinary Concept on Birds in Israel(渡り鳥に国境はない−イスラエルの鳥類研究における学際的概念の適用−)

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○第103回例会(2011年12月11日)
●野間直彦「シカ増加にともなう屋久島西部照葉樹林の鳥類種構成変化」

 ロードサイドセンサスの結果、夏期ではヤブサメ・キビタキ・メジロ・ヒヨドリ、秋・冬期ではミヤマホオジロ・アオジなどの種の出現数が、シカ増加後に減少していた。下層植生が減少した影響を受けている可能性が高い(※ 9月の鳥学会大会での講演内容とほぼ同じです)。


○第103回例会(2011年12月11日)
●川瀬 浩「今、コマドリにおきていること」

 奈良県のコマドリの大きな生息地である台高山系と大峰山系を2010年、2011年と調査し、その結果、33年前の調査に比較し、激減していることが判明しました。その調査内容と激減理由を発表したいと思います。


○第103回例会(2011年12月11日)
●高須夫悟「鳥類育児寄生における卵色多型の集団遺伝モデル」

 鳥類育児寄生(托卵)では卵模様を巡る軍拡競争型の共進化が起こるとされている。近年中国南部でカッコウとその宿主であるダルマエナガ科の種が卵色の多型を示すことが明らかになった。本研究では、卵色を決定する遺伝子に関する集団遺伝モデルを解析する。モデル解析から、卵色が数十世代を周期とする振動を起こす可能性が示された。実証研究における長期的なモニタリングの必要性について議論する。


○第99回例会(2010年7月3日)
●山崎良啓・藤津亜季子・直江将司・正木隆・井鷺裕司「ミズキの結実フェノロジーと訪問する鳥類の季節変化」

 多くの地域において、果実食鳥の種組成は、渡りを反映して季節変化する。また、鳥散布果実の結実量や分布も、樹木の種間・個体間の変異を反映して季節変化する。そのため、果実と果実食鳥の相互作用を理解するためには、季節性が重要な要因となる。そこで、本研究では鳥散布樹木ミズキ(Swida controversa)の種子散布パターンの季節変化を明らかにすることを目的とした。調査は小川学術参考林(茨城県)に設置された6 haの試験地で行った。2009年の結実期間を通して9本の結実木について訪れる鳥と結実量の観察を行った。また、2007年に回収した鳥散布種子について、開発した SSRマーカーを用いて遺伝解析し、種子母樹を特定し散布距離を求めた。
 観察を通して、335個体(15種類)の鳥がミズキに訪れた。訪問した鳥の種組成は季節により明確に異なった。また、結実期の早いミズキには早い時期に鳥が訪問し、結実期の遅いミズキには遅い時期に鳥が訪問した。遺伝解析の結果から、64種子の母樹を特定した。結実前期(中央値15 m, 最大値157 m)と結実後期(中央値27 m, 最大値168 m)では、種子散布距離に有意な差は見られなかった。解析種子の回収に用いた全ての種子トラップには多様な母樹からの種子が含まれていた。以上のことより、結実期の異なるミズキは、異なる種子散布者により異なる時期に種子散布されているが、結実期間を通して鳥による活発な遺伝子流動が達成されていることが示唆された。


○第99回例会(2010年7月3日)
●安藤温子・兼子伸吾・鈴木創・堀越和夫・高野肇・関伸一・小川裕子・井鷺裕司「マイクロサテライトマーカーを用いた絶滅危惧種アカガシラカラスバトの遺伝解析」

 小笠原諸島に生息する固有亜種アカガシラカラスバトは、推定個体数が100羽程度であり、絶滅が危惧されている。ミトコンドリアDNAを用いた解析では、他の亜種とは遺伝的に異なっており、保全上重要な系統であることが示されている (Seki et al. 2007)。また近年、父島列島、母島列島間を個体が頻繁に移動することが確認され、各島を別々の保全単位とみなしてきた従来の認識を転換する必要が生じている。アカガシラカラスバトを長期的に保全するためには、集団の遺伝的多様性および遺伝構造を把握し、適切な保全単位を決定することが重要である。また、生息地以外での保全や生息地への再導入を検討する必要があるが、これらの人為的介入を適切に行なうためには、飼育、野生集団間の遺伝的差異についても把握する必要がある。そこで本研究では、小笠原群島 (父島、母島)、火山列島 (北硫黄島、硫黄島)、飼育集団から採取された計81サンプルについて、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析を行なった。今回はその途中経過を報告する。
 マイクロサテライトマーカー5座による遺伝解析の結果、すべての遺伝子座において特定の対立遺伝子が優占しており、遺伝的浮動、近親交配の影響によって遺伝的多様性が低下していることが明らかになった。飼育集団では、すべての遺伝子座において一つの対立遺伝子に固定していた。一方、野生集団においては各遺伝子座に2つ以上の対立遺伝子が維持されていた。また、小笠原群島と火山列島の集団は異なる遺伝的特徴を持ち、集団間の個体の移動は低頻度である可能性が示された。
 今回の結果から、アカガシラカラスバトの野生集団は、飼育集団よりも遺伝的に健全であることが示唆された。今後は、野生集団を確実に保全するため、生態解明を進めることが重要である。また、将来的には適切な野生個体の導入などによって飼育集団の遺伝的多様性を高め、生息地内外において遺伝的多様性を維持することが望まれる。



○第85回例会(2006年4月1日)
●太田貴大「DNAを用いた鳥類の系統解析と生物地理学 〜日本固有種アオゲラとユーラシア大陸広域種ヤマゲラとの関係を探る〜

 鳥類学においてもDNAを用いた研究は主流になった。それは、見えなかったものが見えるようになったからである。ただし、実際に見えるというわけでもなく、推測に頼らざるをえないという点は、欠点とも考えられる。
初めに様々な分野での研究方向をレビューした。
現在、分子系統解析では、鳥類のみならず、盛んに研究が進められている。今まで外部もしくは内部形態で推測されてきた系統関係や分類の位置付けが、大きく変わってきているといえる。
 分子系統解析の手法のポイントは、系統関係を推測するために適切な分類群を選んでいるか、どの遺伝子領域の塩基配列を決定するか、外群にはどの種を用いるか、どのような系統樹作成法を選択するかといった点である。
 分子系統解析により明らかになった系統関係を紹介した。ノグチゲラはオオアカゲラと近縁であった。ヤマドリは500万年前に分岐しており、長期間固有の進化を歩んでいることが分かった。イベリアのオナガは、アジアからの導入ではないことが分かった。
 このような中でアオゲラとヤマゲラの関係を探ってみる。
 そもそも、アオゲラはヨーロッパに生息するヨーロッパアオゲラに近縁である可能性が高い。ヤマゲラは最終氷期以降に東南アジアから進出してきた可能性が高い。
 このような推測は、対応種隔離分布と言われており、他の鳥種にも見られる。氷河期と間氷期とのサイクルによって、ユーラシア大陸の中央部分に生息していたアオゲラとヨーロッパアオゲラとの共通祖先は絶滅し、遺存種として残ったとする説である。
 これら3種の系統関係をmtDNAのCytbの塩基配列の比較によって明らかにしたい。既存の配列がDDBJに存在するため、比較的楽に解析は行える。
 アオゲラの遺存性が示されたら、ヨーロッパアオゲラとの生態比較、アオゲラの日本の環境への適応の解明や、ヤマゲラの更なる系統解析による分布拡大の証明とRefugiaによる種形成仮説の証明などが考えられる。アオゲラがヤマゲラに由来するならば、日本列島への進入時期と経路を推測する生物地理学的な研究などが考えられる。
 系統解析のための系統解析ではだめだという批判もあるが、系統解析だけにとどまらない多様な研究の展開が期待できる。
 最後に、今後の行く末を占った。系統分類学的には、分子を用いての種の定義、極東産の固有種・固有亜種の系統解析、形態形質による系統推測との一致の確認などが挙げられる。
 生態学の分野でも、より安価により容易に分析ができるような技術的進歩により、多くの生態学者にもDNAを用いた研究が行われており、さらに一般的になると思われる。


○第87回例会(2006年7月31日:滋賀県立琵琶湖博物館セミナー室)
●須川恒「渡り鳥は琵琶湖と東アジアをつなぐ」

 鳥類の国境を越えた長距離のフライウェイ解明するためには形態遺伝的研究・直接観察・金属足環による標識調査・カラーマーキングよる標識調査・衛星追跡などがある。これらの手法による成果を総合的に把握することによってダイナミックで多様なフライウェイの実態が明らかになる。
 琵琶湖にかかわる渡り鳥について、主にカラーマーキングの手法によって明らかになった渡り習性を紹介する。なお、調査で利用したカラーマーキングと確認情報を連絡する手法の概要は日本鳥類標識協会の以下のサイトに日本語と英語で紹介している。
   http://www3.alpha-net.ne.jp/users/jbbajbba/ 

2.ユリカモメの渡り
 琵琶湖で越冬するユリカモメは、1974年より山を越えて昼間京都市内に滞在するようになった。現在多数のユリカモメが琵琶湖で夜を過ごし昼間は京都市内で採食するようになっている。
 日露で並行して行なわれた標識調査によって、ユリカモメは巣立ったカムチャツカの集団営巣地に戻り、また最初に越冬した地域に多くが戻ってくることがわかった。また、1970年代に日本各地で見られたユリカモメの越冬地の拡大や越冬数の増加に対応するコロニーの拡大現象が、同時期にカムチャツカにおいても確認されていた。

3.湖北地方で越冬するヒシクイ
 琵琶湖の湖北地方は、雁類の日本国内における南限の越冬地として貴重で、主に雁の一亜種オオヒシクイが越冬する。カムチャツカで確認されたオオヒシクイの集団換羽地で首輪による標識を行なったところ、日本海側の中継地を南下して湖北地方で越冬する多数の個体が確認された。

4.カワウの個体数増加
 カワウは1982年より琵琶湖内の竹生島で営巣を開始し,営巣範囲拡大に伴う林の枯死の拡大や水産資源への被害が大きな問題となり,対策として多くの個体が射殺されている.標識調査によって、問題解決に必要なカワウの個体群特性を明らかにすることができる。
 竹生島と駆除圧がかかっていない兵庫県昆陽池公園において巣内の雛に標識したところ、竹生島発の個体は広島県から栃木県まで、西日本から関東までの広い範囲で確認されたが、昆陽池発の個体の確認範囲は近畿地方の一部に限られていた。

5.ツバメの集団塒
 金属足環による標識調査によって、近年日本で繁殖するツバメは、以前より考えられていた範囲より南の、ボルネオやジャワ島で多く越冬していることが判明している。ツバメは、人家の軒先に営巣した後の7月〜9月頃に、琵琶湖湖岸などにある面積の広いヨシ原で集団塒をつくる。標識調査によって、この集団塒を形成する時期は南の国へ渡りをするために体重を増加させ、一部の換羽を行なう時期であると判った。
 
6.渡り鳥研究の役割  
 渡り鳥の研究は、ヒシクイやツバメのように湖岸域の湿地の価値を明らかにする上で役立ち、またカワウのように野生動物のマネージメントに必要な個体群の特性解明に役立つ。都市の住民にとっても身近なユリカモメのような鳥の渡り習性を解明することは、野鳥の魅力を多くの人々に伝える上で重要である。



○第87回例会(2006年7月31日:滋賀県立琵琶湖博物館セミナー室)
●Dr. Yossi Leshem「Migrating Birds Know No Boundaries: Applying an Interdisciplinary Concept on Birds in Israel(渡り鳥に国境はない−イスラエルの鳥類研究における学際的概念の適用−)」

 イスラエルは、アジア、ヨーロッパ、アフリカの三大陸の接点に位置し、世界で最も重要な渡り鳥の通過地点の一つとなっています。年に2回、約5億羽の鳥がイスラエルを通って渡ってゆきます。国土面積(23,500m2)との割合でみれば、この数は世界でも稀有な自然の驚異といえるでしょう。
中東の政治情勢を背景に、イスラエルは極めて大規模な空軍を擁しており、その限られた空域との比較から、この空軍の規模も世界記録となっています。この状況が直接の原因となって起こる深刻な問題として、渡り鳥と航空機の数千件にも上る空中衝突事故があります。過去30年間に、軍用機9機が墜落し、3名のパイロットが亡くなりました。1件あたりの損害額が100万−1,000万ドルに上った衝突事故が75件、それよりも少ない損害で済んだものは数百件に上ります。
1984年以降、共同研究によって衝突事故は76%減少し、イスラエル空軍は7億ドルの費用を節約できました。この研究に基づき、私たちは、イスラエル国内で鳥の調査と保護の重要性を多方面から訴えるプログラムを、実際に行った方法に力点を置いて開発することにしました。具体的には、次のような例が挙げられます。
n 衛星を使ったシュバシコウの渡りの研究は、イスラエルの学校250校の教育プログラムとして開発されたものですが、その後、地域プロジェクトとしてパレスチナの30校、ヨルダンの30校まで拡大されました。ここ数年間で、このプロジェクトはロシアやアメリカなど世界中の学校に広がっています。
n 殺虫剤の大量使用による問題が表面化した結果、私たちは農家の協力を得て、何度も意見の衝突を経験しながらも、チョウゲンボウとメンフクロウを有害生物駆除動物として使う多くの代替策を、またフーラ渓谷ではクロヅルと農家の摩擦を減らす解決策を考案してきました。
n バーディング・センターの全国ネットワークが、国内外のバーディングとエコ・ツーリズムの調整機関として機能するよう整備されています。バーディングがこの分野で経済活動の基盤となることが前面に押し出されています。
n グレートリフトバレー(イスラエルからアフリカのモザンビークまで総延長7,000kmにおよぶ大地溝帯)をユネスコ世界遺産に登録する計画が立てられましたが、これには科学的・教育的な視点を広げるとともに、グレートリフトバレー周辺の22カ国の連携を促進させる狙いがあります。

○第95回例会(2009年4月19日:滋賀県立琵琶湖博物館セミナー室)
●奥田幸男「近畿地方のカワウのねぐらとコロニーの分布(2) 就塒個体数と営巣数の経年変化2002-2008」

 2004年7月19日の第80回例会での発表以降の近畿地方でのカワウの就塒個体数と営巣数の経年変化を報告した。調査範囲は兵庫県、大阪府、京都府、奈良県(熊野川流域を除く)、三重県(伊賀地方)和歌山県(紀ノ川流域)。調査は原則として、既知のねぐら(2008年12月で128ヶ所)を繁殖期は3月〜5月、非繁殖期は9月〜11月にそれぞれ一回日没1時間前以降に就塒個体数を数えた。繁殖期には営巣数もあわせて数えた。

ねぐらの数と就塒個体数の年変化

コロニーの数と営巣数の年変化
 (2002-2005年のデータの一部に大阪鳥類研究グループのデータを含んでいます)

竹生島と昆陽池で装着されたカラーリングは2005-2008年でのべ226回観察できた。
大阪自然史博物館の和田学芸員のHPに公開されている情報と併せると;
昆陽池のリングは2001〜2007に装着された380のうち近畿で89、滋賀県で3
竹生島のリングは2002 〜2007に装着された460のうち近畿地方で17、それ以外で30
昆陽池個体が近畿地方の外では記録されていないことから、近畿の個体が非繁殖期も
近畿に留まると考えられる。琵琶湖では冬季には約1000羽しか観察されていないので、非繁殖期に近畿地方でカワウが増えるのは琵琶湖からの流入個体がその主因と推定される(琵琶湖以外の流入個体は三重と静岡の各1例)。
しかしながら、竹生島個体の観察割合から推定される琵琶湖のカワウの数は
近畿地方のカワウの(非繁殖期−繁殖期) の平均は7216羽(2005〜2008)
竹生島個体の観察割合(17 / 47 ≒1 / 3)
報告されている2008年秋の琵琶湖のカワウの数75,000羽とは乖離したものであった。


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