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はじめに

 昆虫の標本づくりというと,むかしオモチャ屋さんで販売されていた「昆虫採集セット」を思い浮かべる人がとても多いようです.現在ではほとんど販売されなくなりましたが,今でも「どこで売ってますか?」という問い合わせの電話をよく受けます.
 このセットの影響は非常に大きかったようで,「昆虫の標本づくりには,必ず防腐剤を注射しなくてはならない」と思っている人も多いようです.また昆虫を注射針で刺したり,虫ピンで刺して止めるというのも,昆虫学者っぽくなった感じがして,一種独特の雰囲気があり,子どもらに人気を博していた部分があるように思います.
 このようなため,「昆虫の標本をつくるには,実は乾燥させるだけで大丈夫なんですよ」と言うと,とても驚かれる方が少なくありません.方法が意外に簡単な上に,とくにチョウやガなどの美しい鱗粉のあるもの,コガネムシのように表面構造によってピカピカ光らせているものなどは,死んでそのまま乾燥させても,生きていた時の状態をほとんど残して標本にすることができますから,集めたり飾ったりするには,昆虫はとてもやりやすい材料だと思います.