○○年前はどうしてわかる

樽野博幸(大阪市立自然史博物館・地史研究室)



 「恐竜は6500万年前に絶滅した」,「大阪層群は約300万年前から30万年前にできた地層である」.どうやって化石や地層・岩石の年代を○○年前であると,決めることができるのでしょう.
 化石や地層・岩石の古さをあらわすのに,もう一つの方法があります.「恐竜は中生代ジュラ紀から白亜紀に栄えた」,「大阪層群は第三紀鮮新世から第四紀更新世にかけてできた地層である」のようないい方です.このような時代名はどうやって決められたのでしょうか.
相対年代
 まず,あとの方から説明しましょう.中生代とか第三紀というのは,地球の歴史を分けるときに使われる時代名です.日本の歴史を平安時代とか江戸時代とかに分けているのと同じです.日本の歴史は政治や経済のしくみの変化にもとづいて分けられていますが,地球の歴史は地球上に現れた生物の変化にもとづいています(図1).

図1:地球の歴史の時代分け(地質年代区分).
   Harland ほか(1989)による.

このような時代わけは,以下の二つの重要な法則にもとづく,多くの研究の積み重ねによって考え出されたものです.
(1)地層累重の法則:上下に積み重なった地層のなかでは,上の地層ほど新しい.
(2)化石による地層同定の法則:場所が離れていても,同じ種類の化石が見つかる地層の時代は同じである.
 ある地域で見られる地層の積み重なった順序と,それらの地層ごとに見つかる化石を調べ,どんな種類の化石がどんな順番で見つかるかを調べます.1カ所の研究では,それほど長い期間の化石の変化を追うことはできません.しかし,このような研究を多くの地域で行い,それらの結果をつないでゆくことで,長い地球の歴史のなかで,どんな種類の生物が現れ消えていったのかがわかります.こうして,図1のような地球の歴史の時代分け(地質年代表)ができています.実際には,アンモナイトや恐竜そしてほ乳類の中にもたくさんの種類があり,それらの種類の入れかわりにしたがって,さらに細かく時代分けがされています.
 19世紀以来,多くの地質学者や古生物学者がこの方法を積み重ねてきました.しかし,この方法でわかることは,地層や岩石がつくられた順番であり,化石(つまり過去の生物)の順番だけです.たとえば「ゾウの化石を基準にすると,日本では第三紀鮮新世のおわりころから第四紀更新世前期の中ごろまでは『アケボノゾウの時代』である」,ということができます.この言い方では,「第三紀鮮新世」や「第四紀更新世」という世界の標準的な時代分けと,日本でゾウの化石によって区別された「アケボノゾウの時代」との,前後関係が述べられています(図2).

図2:ゾウの化石による時代分けと他の年代区分との関係.
  左から3番目までの欄は,大阪・琵琶湖周辺・伊勢湾周辺の地層と,そこから見つかったゾウの化石と,火山灰層の関係を示しています.この図の第三紀と第四紀の境界の年代は,Cande & Kent(1995)の古地磁気年代に基づいているため,図1とずれています.古地磁気年代の欄の黒は地球の磁石が今と同じ向きの時期,白は今とは逆の時期を示しています.


 このような順番だけであらわされた年代を相対年代といいます.相対年代は,目盛りは入っているけれど数字が入っていない,「物差し」のようなものといえるでしょう.
古地磁気年代・火山灰層対比
 相対年代の「物差し」をつくるには,化石のほかにも,いくつかの方法が使われています.ひとつは,地磁気の向きをしらべる方法です.
 磁石のN極とS極がだいたい南北をさすのは,地球全体が大きな磁石になっているからです.現在の地球のS極は北極の近くにあり,N極が南極の近くにあります.ところが今から約78万年から258万年前には,このN極とS極が逆の位置にありました.この時代を発見者の名をとって「松山逆帯磁期」とよんでいます.現在は「ブリュンヌ正帯磁期」とよばれます.連続的にたまっている地層で,過去の地磁気の向きをはかることで,正帯磁期と逆帯磁期がどうくりかえしたかをたどり,化石による時代分けと関連づけることができます.たとえば,「ムカシマンモスの時代」の終わりは,松山逆帯磁期の終わりより少し後になります.
 新しい時代の地層の場合には,そこに挟まれている火山灰層をしらべることで,遠く離れた地層の新旧を比べることができます.1707年に富士山が爆発したときには,江戸にまで軽石が飛んだことが知られています.ところが,過去にはもっと規模の大きな火山噴火がありました.約2万8千年前に,今の鹿児島湾で起こった大爆発の火山灰は,日本列島全体をおおい,朝鮮半島にも降りました.約9万年前の阿蘇山の大爆発はさらに大きなものでした.
 このように火山灰は,一瞬のうちに広く地面を覆ってしまいます.だからいくら遠く離れていても,同じ火山灰層が見つかれば,その火山灰層のすぐ下の面は,確実に同じ時間の面であるといえます.広く分布する火山灰層が何枚も見つかり,その上下関係(=新旧)がわかっていれば,火山灰層を基準に,遠く離れた場所の地層の新旧を,精密に比較することができます.日本ではおよそ500万年前より新しい時代の地層から,このような広い地域に分布する火山灰層が何枚も見つかっています.

数値年代
 順番だけを示す相対年代に対し,6500万年前とか1億年前というように,数字で表された年代を数値年代といいます.以前は絶対年代とも呼ばれていましたが,「絶対」といういい方は「絶対正しい」と誤解されることがあるので,今は数値年代と呼ばれることが多くなっています.地質年代表に数値年代を入れることは,簡単ではありません.古くからいろいろな方法が考えられてきましたが,今では化石や岩石に含まれている放射性同位元素の量をはかる方法がよく使われています.
炭素14年代(14C年代)
 酸素でも炭素でも同じ元素なのに,重さのちがうものが少しだけまじっています.炭素を例にすると,普通の炭素の原子核は,陽子6個と中性子6個でできているのに対し,中性子が7個のものと8個のものがわずかですが含まれています.このような元素を同位元素と呼び,たがいを区別するときには,元素名に陽子の数と中性子の数をたした数(=質量数)をつけて呼びます.炭素の場合にはそれぞれ,炭素12・炭素13・炭素14(それぞれ12C・13C・14C)となります.

図3:放射性同位元素の半減期.
   例は14C.12Cの量は変わらない.

 同位元素の中には,放射線を出して別の元素に変わってしまうものがあります.こういう同位元素を放射性同位元素と呼んでいます.炭素の中では14Cが放射性同位元素で,放射線(ベータ線)を出して窒素に変わって行きます.放射性同位元素が別の元素に変わって,はじめの量の半分になる時間(半減期)は一定です.14Cの場合には,約5740年で半分になります.さらに5740年たつとその半分,つまり4分の1になってしまいます(図3).このままでは14Cはどんどん少なくなってしまいそうですが,じつは絶え間なく地球に降りそそいでいる宇宙線によって,新しくつくられています.5740年たって半分になるのと,毎年新しくつくられるのとが,ちょうど釣り合っていて,地球上の14Cは,ほとんど一定だと考えられています. 
 さて同位元素には重さや放射線を出す出さないといった違いがあるのですが,化学的な性質に差はないので,他の元素と同じように結びついて化合物をつくります.植物は光エネルギーを使い,根から吸い上げた水やその他の養分と大気中の炭酸ガスで,自分の体を作っています.このとき,炭酸ガス中の炭素が植物の体に取り込まれますが,12C・13C・14Cは大気中に含まれていたのと同じ割合で植物の体の一部になります.先に述べたように空気中の14Cの量はほとんど変わらないので,炭素が植物の体に取り込まれたときの,12Cと14Cの割合は,その時期に関わらずほとんど同じだったと考えられます.
 ところが植物の体の一部になった炭素は,燃えたり腐ったりしなければ,再び大気中に出ていくことはありませんし,大気中の新しい炭素と入れかわることもありません.そのため,植物の体に取り込まれた14Cの12Cに対する割合は時間とともに(5740年で半分に)へっていきます.植物だけでなく,貝殻や骨でも同じことがいえます.
 このような放射性同位元素の性質を利用すれば,化石や岩石そのものから,それらの数値年代(この場合は放射年代といいます)を測ることができます.たとえば木や骨の化石の場合には,それに含まれる14Cの量をはかればよいわけです.この方法では,約6万年前までの年代を測ることができますが,それより古くなると,14Cの量が少なくなりすぎて,測っても誤差が大きくなってしまいます.6万年より古い化石や岩石の数値年代を測るには,14Cより長い半減期をもつ放射性同位元素を使います.
相対年代と数値年代
 たくさんの放射年代を測ることで,目盛りしかなかった相対年代の物差しに,数値を入れることができます.先に述べた「アケボノゾウの時代」の始まりは,約200万年前でありその終わりは,約120万年前です.ここまでわかれば,日本のどこかで,アケボノゾウの化石が見つかれば,その地層はおよそ200万年前から120万年前にたまった地層だということができます.また,アケボノゾウの化石が出てくる地層の中でも,下の方の地層から見つかったシカの化石は,およそ200万年前かそれより少し新しいものだということになります.
 「○○年前の化石」「××年前の地層」といっても,多くの場合には,このような相対年代と数値年代の組み合わせで出された年代です.
年輪年代
 放射年代の他にも,数値年代を出すための方法がいくつかあります.代表的なものが,最近日本でも実用化された年輪年代です.
 年輪は木の幹や枝が春から夏によく成長し,秋から冬には成長が遅くなるために,できるものです.ところが,切り株を見ればわかるように,年輪の幅は毎年同じにはなりません.たとえば冷夏や干ばつのため,また太い枝が折れたりすると,木の成長が大変わるくなることがあります.枝折れなどは特別なできごとですが,気候変化による年輪幅の変化は,同じ時期に育っていたたくさんの木で,同じように見られるはずです.樹齢1000年の木の幹には,1000年間の気候変化の影響が,年輪幅の変化として残されています.この性質を利用し,現在の木だけでなく,過去に切られたり倒れた木を使って,年輪幅の変化=気候変化を過去にさかのぼることができます(図4).

図4:年輪年代.
  A,B,Cは木を縦に切って見える年輪.右端の灰色の部分は樹皮,左端は木の中心.Aが今年切られた木だとすると,Bは6年前に切られ,Cは14年前に切られたことがわかる.3本の木の年輪を合わせれば31年分の年輪幅の変化の記録ができる.


 日本では,現在から約3300年前までの年輪幅変化のパターンが,明らかにされています.大昔の家の柱や,化石の木の年輪幅の変化ををしらべて,それがこのパターンのどこかに一致すれば,何年前に年輪ができたか,つまりその木がいつごろ育っていたかがわかります.また,木のもっとも外側の年輪が残されている場合,その木が切られたり倒れた年を正確に言うことができます.同じ数値年代でも放射年代は,あくまでも計算で求められた年代です.先に書いた「もともとの14Cの量は一定」というのも本当は正しくありません.どうしても誤差があります.ところが年輪年代は,うまくいけば暦年と一致します.
 外国ではこの方法で1万数千年前までの年代がはかられています.日本でもこの方法で,さらに古い年代がはかられるようになるでしょう.
<たるのひろゆき:博物館学芸員>

この文章はNatureStudyに掲載された文章を新たに改訂したものです。